志村けんさんが亡くなって甲子園
中止を覚悟した球児の本心と底力

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

「夏の甲子園中止」については、それなりに覚悟はしていたが、いざ正式に決まると、やはりやりきれない思いがこみ上げてくる。

 夏の甲子園の熱狂と興奮は何事にも代えがたく、あの空間で過ごすひと時はじつに贅沢である。なにより楽しみなのは、選手たちのパフォーマンスだ。厳しい練習に耐え、鍛え上げた力を遺憾なく発揮する者。そして夏の大会では必ずといっていいほど「甲子園のスター」が現れる。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、戦後初の夏の甲子園中止が決定した新型コロナウイルス感染拡大の影響で、戦後初の夏の甲子園中止が決定した 昨年なら決勝で星稜の奥川恭伸(現・ヤクルト)からホームランを放った履正社の井上広大(現・阪神)がそうだし、一昨年なら決勝まで勝ち上がった金足農の吉田輝星(現・日本ハム)が甲子園を沸かせた。

 また、2017年夏の甲子園では広陵の中村奨成(現・広島)が大会6本塁打を放ち、2016年夏に古豪復活を果たした作新学院のエース・今井達也(現・西武)もそのひとりだろう。

 彼らは甲子園での活躍によってスカウトたちの評価を一気に上げ、その秋のドラフトで上位指名を受けた選手たちだ。だが今年は、そんな「甲子園のスター」に出会うことができない。

 それどころか、誰もが目指す甲子園の道さえ閉ざされてしまったのだ。培ってきた技術を発揮できず、高校野球にピリオドを打たなければならない選手たちの落胆は、我々の想像をはるかに超えるだろう。彼らにかける言葉が見つからないというのが、正直な感想だ。

1 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る