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上野由岐子は「もう一回」が考えられず、
東京五輪出場へ葛藤は長かった (3ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Sportiva

―― すごくいい言葉だなと思いました。

「やっぱり、つらいことのほうが多いんですよ。でも、最後のあの(優勝の)瞬間を味わうために、ずっと積み重ねているんです。ほんと、あの一瞬のためだけに頑張っているんです。だって、試合が終わって取材を受けている時は、もう頭の半分は次のことを考えているんですよ。でも、あの一瞬は何事にも代えがたい。だから頑張れるんです」

―― 昨年は4月末にあごを骨折して離脱。しんどい1年だったのではないですか。

「私のなかでは"休んだ"という捉え方です。あごの骨折だったので、首から下は元気なんです。もう元気すぎて、体がウズウズして......引退したあとはどうなっちゃうんだろうって。勝手に散歩したり、グラウンドに行って走ったり。看護婦さんには怒られましたよ(笑)。

 あとは休んだおかげで、体がフラットになった感覚です。余計な筋肉や張りがなくなったので。ただ、必要な筋肉も落ちてしまったので、ここから鍛え直して、ケガをする前よりももっといい体がつくれるなって考えていました」

―― 頂点を極めた上野投手でも、まだ上を目指しているんですね。

「うーん、うまくなりたいという感情とはちょっと違うんですよね。自分の心というか、感情を満たすためと言ったほうがいいかもしれません。あとは好奇心。『もっとこうできるんじゃないか』『こうしたらどうなるんだろう』って勝手に想像して、練習で試しています。球種を増やそうと努力しているのではなく、『こう投げたらこう曲がるのか......』といったように投げていくうちに新しい球種が生まれるみたいな感じです。今も新しい変化のボールを探っています」

―― 若い頃とは違う感覚?

「違いますね。以前は『もっといいボールを投げたい』『スピード、キレ、コントロールを磨かなきゃ』って思っていましたが、今は『どのように投げたらもっと楽に抑えられるか』とか、『こうすれば面白いかな』という感覚ですね」

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