遊撃手の新時代を築く逸材。京都国際・上野響平の守備はファンキーだ (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 上野本人に聞くと、この巧みな握り換えは「体を柔らかく使って、ボールまでの入りと胸まで持っていく速さを意識する」と言う。雨の日は体育館で「ボールワーク」と呼ばれる、股を割って10球連続でゴロ捕球をする基礎練習をみっちり積んできた。

 前出のビスケルはベネズエラ人だが、上野の守備にも中南米系の雰囲気を感じる。上野の話を聞いてみて、なるほどと合点がいった。上野はこれまでの野球人生で、ジャンピングスローのようなアクロバティックなプレーを禁じられた経験がまったくなかったのだ。

「小学校、中学校、高校とジャンピングスローやランニングスローは『一番速くランナーをアウトにできるプレー』と教わってきました」

 日本野球の指導現場は着実に進化しているが、いまだに「ゴロは正面に入って捕る」という教えが根強く残っている。ショートが三遊間のゴロを無理やり正面に入って捕ろうとして、逆に苦しい体勢になり強い送球ができないというシーンをよく見る。ジャンピングスローをしただけで、無条件に怒る指導者もいる。

 しかし、今や「逆シングルでもヘソの前で捕れば正面になる」という技術指導が広まりつつある時代である。上野の守備には、新時代の日本人遊撃手が求められる要素が詰まっている。

 上野が日頃練習するのは、学校の体育の授業でも使用する砂利混じりのグラウンド。行事の際には駐車スペースにもなり、表面はでこぼこしている。そんな不安定な足場でプレーしているため、球場での試合は「跳ね方がわかるので守りやすい」と上野は事もなげに語る。

 憧れの選手は、体型が近い今宮健太(ソフトバンク)。「小さくてもやればできる」と、その強烈な肩に魅了されている。

 守備力が高い一方で、今後の課題が打撃になるのは間違いない。取材に訪れた日は木製バットで精力的に振り込んでいたが、まだ非力感は否めなかった。とはいえ、高校通算11本塁打のうち9本は高校3年の6月以降に放ったもの。強くスイングする意識が備わり、着実にレベルアップしている。

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