ヒントは吉田輝星。惜敗した津田学園のエースの将来はいい予感満載

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 初めて見た津田学園(三重)のエース・前佑囲斗(まえ・ゆいと)は、鼻に詰め物をしていた。

「試合前にベンチにタオルを取りに行こうとしたら、鼻血が出てきちゃって......。緊張と興奮があったのかもしれません。こんなことは初めてだったんですけど」

 昨秋の1020日、三重・津球場での東海大会初戦・津田学園対大垣日大(岐阜)の試合前のことだった。試合が始まる頃には鼻血は止まっていたが、いかにも前が入れ込んでいることが伝わってきた。

敗れはしたが、龍谷大平安相手に堂々のピッチングを見せた津田学園・前佑囲斗敗れはしたが、龍谷大平安相手に堂々のピッチングを見せた津田学園・前佑囲斗 小学3年時に右手首を骨折したこともあり、手首は多少硬さがあるという。身長182センチ、体重87キロの堂々たる体は、肩・ヒジの故障歴がない頑丈さも併せ持っている。しなやかさを売りにするというよりは、いかにも「剛腕」のムードが漂っていた。

 あれから5カ月。甲子園球場のマウンドに立った前は、試合前に鼻血を出していた人間とは思えない、リラックスした姿を見せた。

「立ち上がりは緊張もあったんですけど、マウンドに立ったら強いボールを投げることだけを意識したら、緊張がほぐれました」

 前は試合後にそう振り返ったが、その言葉以上にいい意味で力感の感じられないマウンドさばきだった。昨秋の近畿王者・龍谷大平安(京都)を向こうに回しても、「力でねじ伏せてやろう」という雰囲気は微塵もなかった。

 軽いキャッチボールの延長のような脱力したフォームから放たれるストレートは、ほとんどが130キロ台中盤。それなのに、龍谷大平安打線は前のボールをとらえきれなかった。スライダー、カーブに加え、左打者には落ちるツーシームも駆使して打たせて取る。大会前に「最速148キロ右腕」と騒がれた剛腕のイメージを覆(くつがえ)す内容だった。

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