高校ではベンチ外も大学で開花。本塁打連発の男が一躍ドラフト候補へ (4ページ目)

  • 永田遼太郎●文 Nagata Ryotaro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 先輩たちの優しさも山形の心に深く刺さった。ある日、試合で打てないで帰りのバスに乗り込むと、1学年上の先輩・松村誠矢が肩をポンと叩き声をかけた。

「お前は一番大事な試合で打つから、そんでええねん」

 なんだか救われた思いがした。また、同じ1学年上の松本丈志郎とはいつもバッティング談議に花を咲かせた。

 そして迎えた2018年のシーズン。世話になった1学年上の先輩達と戦うのは最後のシーズン。自然と闘志に火がついた。そして関東地区大学野球選手権での3試合連発。これまでノーマークだったプロのスカウトの目にもすっかり留まったことだろう。

 だが、明治神宮大会出場まであとひとつと迫った関東地区大学野球選手権準決勝。対上武大学。この試合で大会3本目の本塁打を打った山形だったが、試合の中盤、自身の守備のミスから一気に逆転を許した。

 そして1点ビハインドで迎えた9回裏、無死二、三塁で、この試合4度目の打席に立った山形だったが、ショートゴロに打ち取られる。次打者の保科広一も三振に倒れると、いよいよ追い込まれた。「なんとか頼む!」心の中で叫んだ。

 すると、下級生の時から苦楽をともにしてきた同級生の下小牧がレフト前にタイムリーを放って同点。

「1点目、2点目と、自分のミスから点が入ってしまったので......。そこから3対3になって、これで負けたら本当に自分のせいだなと思って。でも、みんなが最後まで勝利を信じてバットを振ってくれた結果だと思います」

 その後、延長タイブレイクで味方打線が3点を奪って勝利すると、ベンチからロッカーに引き揚げてくる間、涙が止まらなかった。

「自分のこれまでを振り返ると、チームの勝ち負けよりも、自分が打ったらそれでいいという考えがあったと思うんです。でも今回、4年生のためにとか人のために何かをしようと考えたら、それが活力になって結果も出た。岸監督も『自分のためだけにやるのは限界がある。だから人のために尽くすじゃないけど、人のために尽くしたらそれが自然と返って来るから』って常々おっしゃっていて、そのことを今回思い出したんです」

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