スカウト注目の75本塁打男は、3つの見えない武器を売りにプロで勝負 (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 マウンド上の投手の呼吸に注目し、わずかな動きを見逃さない。

「ぼんやり見ているとわかります。ガーって見てたらわからないです。調子がいいときは冷静にぼんやり見れるんですけど、『行こう、行こう』としすぎると見えないときがある。まだ、そのときの調子によるのが課題ですね」

 100パーセントではないとはいえ、ここまで考え、観察しようとする高校生はなかなかいない。なぜ、こういうところまで気づくことができるのか。

「原点は野球が好きだからだと思います。『もっとこうやったらいいんじゃないか』って、ひとつのことを突き詰めるのが好き。それを考えたいっていうのがあります」

 売り物の打撃面でも、ほかの打者とは違うすごさがある。

 それは"眼"。選球眼とバットコントロールの巧みさだ。

 1年夏からレギュラーの座を獲得した山下。3年間の公式戦通算約260打席で三振はわずか10個しかない。前述したように、山下は高校通算75本塁打を記録しているスラッガーである。ホームランバッターの特権ともいえる三振をせず、本塁打を量産したのだ。そこに価値がある。

「小学生の時は三振ばっかりだったんです。ボールに当たらなかった。どうしたらいいかと考えて、羽根(バドミントンのシャトル)打ちをひたすらやりました。羽根は途中で失速するので、最後まで見ないと打てない。それがつながっているのかなと思います」

 その結果、こんなことを言うまでになった。

「2年生で4番を打っていたとき、葛原(美峰コーチ)先生に『三振してこい』と言われたんですけど、『できません』と。当たっちゃうんですよ。打たなくていいと言われてるコースなら空振りになればいいんですけど、インフィールドに飛んでしまう。それがちょっと嫌なんです。逆にボールに当たりすぎる。最初から空振りしようと決めてたらできるんですけど、ボールが来てから空振りしようと思ってもできないんです」

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