スカウト注目の75本塁打男は、3つの見えない武器を売りにプロで勝負

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 野球のベースは2種類ある。上の面に丸みがあるものと、箱のように角ばっているものだ。甲子園など多くの球場は前者だが、昨年までの高崎城南球場は後者だった。

 この違いに、ほとんどの高校生は気がつかない。というよりも、気にもしない。だが、健大高崎3年・山下航汰(右投左打/外野手)は違った。

「ベースを踏むとき、丸いとクッションがあるから(踏むときの衝撃を)吸収してくれる。その勢いを使ってふくらまず走塁できるんですけど、角ばっていると硬くて凹まないので、失速するし、足もくじくんです」

高校通算75本塁打の健大高崎・山下航汰高校通算75本塁打の健大高崎・山下航汰 一塁ベースを回る際、健大高崎では左足でベースの本塁側の側面を踏むことになっているが、高崎城南球場に限っては、山下はベースを踏む足を右に変え、踏む位置も本塁側の二塁ベース寄りの角に変えていた。それでもしっくりこなかったため、踏む位置を微妙にずらし、足の角度も修正。スパイクのつま先側の刃をベースにかけ、ベースを陸上のスターティングブロックのように使えるようにした。

「そのままやったら絶対ケガするじゃないですか。それと、ベースの角を踏んでも加速する勢いがでなかったので......」

"機動破壊"をキャッチフレーズに走塁にこだわる健大高崎のなかでも、そんな工夫をしていたのは山下だけ。先輩も含め、ほとんどの選手は「踏みづらいな」で終わっていた。

 ただ指導者に教わったことをやるのではなく、教わったこと以上のこと、さらに上のことをやろうと考えるのが山下なのだ。

 そんな姿勢は、走者となった時にも表れる。高校通算75本塁打で打力ばかり注目される山下だが、50メートル6秒3と足もある。下級生時は4番打者だったが、出塁率も高いため3年時は1番打者。「走塁の感覚、勘がいいから」(葛原毅コーチ)という理由で走塁リーダーも務めていた。

 健大高崎の中でも山下が突出しているのが観察眼。投手の背中を見て、けん制がくるのか、本塁に投球するのかを読み取る力がある。

「呼吸でわかります。息を吸って投げる人はいません。必ず吐いてから投げますから。わずかに吐くところを見ている感じですね」

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