2018.08.15

最後まで自分の仕事を。済美の名脇役が
呼び込んだ逆転サヨナラ満塁弾

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 愛媛と石川の名門校同士の対決となった済美vs星稜は、済美のエース・山口直哉が1回表に5本のヒットを打たれて5失点。星稜打線の打球の速さと力強さを目の当たりにし、その時点で「何点入るんだろう」と思ったファンも多かっただろう。

 星稜は石川大会の5試合で53得点を挙げた打撃力だけでなく、1点も許さなかった投手力にも定評があった。済美も強打を武器に愛媛大会を勝ちあがったチームだったが、優勝候補の一角に挙げられる強豪に許した5点のリードは決定的な差に思えた。

 済美の山口は、2回以降は粘り強く投げていたものの、3回表と5回表にそれぞれ1点を失った。8回表が終わった時点で1-7。敗色ムードはさらに濃くなり、熱戦続きの甲子園のスタンドにもどこか白けた空気が漂っていた。

 しかし、済美の選手たちは劣勢に立たされてもあきらめなかった。試合前に「リードされる展開になるぞ。離されても粘っていこう」と、中矢太監督に釘を刺されていたからだ。九番センターで先発出場した政吉完哉(まさよし・かんや)もこう証言する。

「監督からは『レベルは相手のほうが上。点差をつけられてもあきらめず、泥臭く、粘り強くいこう』と言われていました」

 8回裏の攻撃はその政吉から始まった。それまで2安打の政吉がデッドボールで出塁すると、一番打者の矢野巧一郎が内野安打、二番の中井雄也もヒットで続き1点を返す。勢いづいた済美打線はその後も4本のヒットを重ねて6-7まで詰め寄った。

 ツーアウト一、三塁とチャンスが続く場面で、再び”ラッキーボーイ”に打席が回ってくる。168センチ、65キロと小柄な政吉がインコースの球を打ち返すと、打球はレストスタンドに向かって舞い上がった。

「打った瞬間はレフトフライかと思いました。芯でとらえたんですが、高く上がりすぎたかなと。まさかホームランになるとは・・・・・・。ホームインした瞬間に、『本当にホームランを打ったんやな』と実感しました」