5年前の再現なるか。前橋育英が谷間の世代で当時と同じ匂いがする

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 前橋育英(群馬)が2対0で近大付(南大阪)を下した試合後。お立ち台で勝利監督インタビューに答えた荒井直樹監督は、しみじみと実感を語った。

「今年のチームは正直言って『非常に厳しい』と思っていました。秋、春のどちらも結果を残せませんでした。今年の3年生は強かった1つ上の学年と、能力の高い1つ下の学年の間にグッと挟まった年代です。でも、粘り強さはあったんでしょうね。それは(群馬大会の)決勝戦で勝ったときに思いました」

「守りから攻撃につなげたい」と語る前橋育英のキャプテン・北原翔「守りから攻撃につなげたい」と語る前橋育英のキャプテン・北原翔 今年の前橋育英は「谷間の世代」と呼ばれていた。キャプテンを務める北原翔は言う。

「夏の大会前の練習試合では10連敗したり、土日の練習試合で1点しか取れなかったり......。このまま夏に入って大丈夫か? と思っていました」

 遡(さかのぼ)ること半年前の2月、健大高崎と前橋育英を1日ずつ取材する機会があった。両校とも近年の群馬で覇権を争うライバルとして、お互いに敬意を表するコメントが飛び交った。だが、今年の戦力にかけては大きな差があった。

 健大高崎は山下航汰、高山遼太郎といったプロ注目選手を擁し、代名詞の「機動破壊」だけでなく、どの打順でも本塁打が打てる強力打線。間違いなく、攻撃力は全国でもトップクラスの陣容だった。

 一方、前橋育英の戦力はどうか。甲子園に春夏連続出場した昨年の代からレギュラーだったのは、4番打者の小池悠平のみ。練習中のシートノックを見ても、ショートを守る北原の軽やかな身のこなしが目立つ程度で、有望選手がひしめいた1学年上の代に比べると明らかに見劣りした。

 群馬名物「赤城おろし」と呼ばれる強風が吹き荒れるなか、前橋育英の選手たちは黙々と練習に取り組んでいた。首周りに厚手のネックウォーマーを巻いた荒井監督は、「今日は一段と風が冷えますね」と言いながら、こんな話をしてくれた。

「ウチの野球は『我慢の野球』なんだと思うんです。守備型の野球って、我慢の側面が大きいじゃないですか。結果的に、それが県民性にマッチしたのかもしれません」

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