「悲劇の右腕」の教え。木更津総合に
好投手が生まれ続ける謎が解けた

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 木更津総合の投手はなぜ育つのか――。

 これまで不思議で仕方がなかった。近年、木更津総合には毎年のようにプロスカウトから注目される投手が現れる。記憶に新しいのは、2016年春夏の甲子園ベスト8に導いた早川隆久(早稲田大2年)や、昨年「高校屈指の左腕」と言われた山下輝(ひかる/法政大1年)など。いずれも大学に進学したものの、プロ志望届を提出していればドラフト指名は確実の好素材だった。

 木更津総合の五島卓道監督は早稲田大、川崎製鉄神戸で内野手として活躍。暁星国際(千葉)監督時代には小笠原道大(元中日ほか)を育成した実績がある。もともと野手育成には定評があるが、木更津総合には投手を専任で教える指導者はいないという。もちろん、好素材をリクルートしているという前提はあるとはいえ、これだけ好投手が続くのは、何か理由があるのではないかと考えていた。

2013年の夏に2年生エースとして甲子園に出場した千葉貴央2013年の夏に2年生エースとして甲子園に出場した千葉貴央 そんな折、今年のドラフト候補である木更津総合OBの鈴木健矢(JXENEOS)を取材する機会があった。鈴木は高校時代にサイドスローに転向して才能を開花させ、キレ味鋭いボールで注目されている。なぜ木更津総合の投手が育つのかを率直に聞いてみると、鈴木は爽やかな笑顔をたたえてこう答えた。

「僕の1学年上に『千葉さん』という先輩がいたんですけど、この人がすごかったんです。僕もみんなも、千葉さんから技術的なことや練習メニューを教わっていましたから」

 意外な形で名前が登場したが、この「千葉」という選手は、高校球界では名の知れた存在だった。一般的には「悲劇の右腕」として知られている。

 2013年夏の甲子園2回戦、木更津総合は西脇工(兵庫)と対戦した。先発したのは1回戦でも完投勝利を収めた2年生エース・千葉貴央。だが、その立ち上がりの投球に球場は異様な雰囲気に包まれる。

 千葉はまるで軽いキャッチボールのような力感のないフォームから、スローカーブを続けた。1番打者を6球すべてスローカーブで三振に仕留めたところで、たまらず木更津総合ベンチは投手交代を決断。千葉は右肩を痛めており、思い切り腕を振ることができなかったのだ。

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