2018.07.11

神奈川屈指の快速左腕を育てた、
「豪華すぎる2人のコーチ」の正体

  • 高橋博之●文 text by Takahashi Hiroyuki
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

「ランナーを出しても関係ない」

そう堂々と胸を張って答える投手がいる。藤嶺藤沢の矢澤宏太は身長173cm体重65kgの細身から、最速148キロのストレートと、鋭く縦横に変化するスライダーで三振を量産する左腕だ。指導する中丸洋輔監督は矢澤をこう評す。

今年春の県大会で6回参考ながらノーヒット・ノーランを達成した藤嶺藤沢・矢澤宏太「矢澤は本当にスピードにこだわりがありません。いつも勝てるピッチングのことばかり考えています。とにかく丁寧に投げてアウトを積み重ね、勝負どころになると一気にギアを入れて、打者を圧倒することができる。140キロ台後半のボールはグングンくるし、鋭く曲がるスライダーもあります。捕手は大変ですよ。体中アザだらけです」

 矢澤らしい試合がある。今年春の県大会2回戦で、藤嶺藤沢は慶應義塾湘南藤沢と対戦。試合は15-0で藤嶺藤沢が6回コールド勝ちを収めのだが、矢澤は参考記録ながら10三振を奪い、ノーヒット・ノーランを達成した。

「矢澤はけん制でもアウトを稼げる。この試合でもフォアボールで出したランナーを2人、けん制でアウトにしました。フォアボールを出しても、結果的に抑えればいいと思っているから、ランナーがいても腕をしっかり振ることができる。腕の振りが縮こまると相手に球を見られてしまいますが、矢澤にはそれがない。私も選手も、矢澤がフォアボールを出してもなんとも思いません」

 矢澤の帽子のつばには「気」と書かれている。昔から必ず書いている言葉だ。町田リトル在籍時、チームの監督の後輩という縁があり、日本シリーズでMVPを獲得したこともある元西武の石井貴が野球教室を開いた。そのとき、石井に書いてもらった言葉だと矢澤は教えてくれた。

「『気』にはいろんな『気』があるからと……。このとき以来、ずっと書いています」

 石井とは、藤嶺藤沢に進学したあとも縁があった。矢澤が入学したとき、石井は藤嶺藤沢で非常勤コーチとして指導していた。石井が徳島インディゴソックスの監督になるまでの2年間、矢澤は指導を受けた。石井は解説の仕事など多忙のため定期的に見ることはできなかったが、部員たちの刺激になった。中丸監督が苦笑まじりに言う。