桐光学園・松井裕樹の短すぎる夏。
取り戻せなかった「最高の感覚」

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • 山田翔貴●写真 photo by Yamada Hiroki

 ゲームセットの瞬間を桐光学園・松井裕樹はネクストバッターズサークルで迎えた。誰よりホームに近い位置にいながら、整列には遅れて加わった。予定より1カ月も早い夏が終わり、松井は昨年夏の甲子園準々決勝で光星学院(現、八戸学院光星)に敗れて以来となる、大粒の涙を落とした。

7回に横浜の浅間大貴に決勝点となる逆転の2ランを浴びた松井裕樹7回に横浜の浅間大貴に決勝点となる逆転の2ランを浴びた松井裕樹

 1年夏の神奈川大会決勝の横浜戦で松井は先発を任されるも途中降板し、チームもサヨナラ負けを喫した。そして2年夏、準々決勝で再び横浜と対決した松井は4-3でリベンジを果たすと、勢いに乗り神奈川を制覇。甲子園でも4試合で68個の三振を奪うなど、スターダムを駆け上がっていった。

 そして夏の神奈川大会3度目となる横浜戦、松井は2本の本塁打に泣いた。4番・ショートの高濱祐仁にはチェンジアップのすっぽ抜けを、2番・センターの浅間大基には捕手の構えた外角から逆球となって甘く入ったストレートをスタンドに運ばれた。ふたりも将来を嘱望される横浜の2年生スラッガーだ。

「自分の失投です。あの2球が悔やまれます」

 振り返れば、桐光学園に得点のチャンスは幾度もあった。1回は1点を先制して、なおもチャンスは続いたが、後続が打ち取られ追加点を奪えず。3回にも二死から満塁機を作るもあと一打が出ない。そして2-3と1点ビハインドで迎えた8回は無死一、三塁と絶好の同点機を迎えたが、三塁走者の松井がホームを踏むことはなかった。最後まで1点が重くのしかかり、松井の夏は終わった。松井は言う。

「最後の夏の甲子園を目指してこの3年間やってきた......悔しいです。調子は悪くなった」

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