【高校野球】安樂智大の772球。繰り返してはならない「17年前の悲劇」

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

5試合に登板し、計772球を投げた済美のエース・安樂智大5試合に登板し、計772球を投げた済美のエース・安樂智大 歴代最多の甲子園63勝を挙げている智弁和歌山の高嶋仁監督に、こんな質問をしたことがある。「今まで一番後悔していることは何ですか?」と。すると高嶋監督は間髪入れず、こう答えた。

「高塚をつぶしたことやな」

 高塚とは、1996年のセンバツで準優勝したときの2年生エース・高塚信幸(元近鉄)のことだ。初戦と準々決勝で完封するなど、140キロ台の速球を武器に準決勝までの4試合をすべて完投。チームを決勝に導く原動力となった。だが、高塚はこの大会の連投で肩を痛め、全国優勝した3年生の夏はほとんど登板できずに終わった。

「2番手で予定していた宮崎(充登/元広島)が大会前に故障したのもあったんですけど、投げるだけなら、他にもおったんですよ。その子らを投げさせていれば......」

 その高塚以来、2年生投手として17年ぶりに4試合連続完投で決勝に進出したのが済美高校の安樂智大だった。初戦(2回戦)の広陵戦で延長13回、232球を投げ切ると、3回戦の済々黌戦は159球、準々決勝の県岐阜商戦138球、準決勝の高知戦134球と決勝までに663球を投じてきた。準決勝の試合後、「ここまで来たら優勝してみたい。ワクワクしています」と疲れを感じさせないコメントを残していたが、体は正直だった。決勝前夜の宿舎で安樂は、ぽつりとこう語った。

「肩やヒジに張りはないですけど、下(半身)が疲れています。試合後は歩くのも辛かった。今も立っているのが精一杯です」

 そして3連投となった決勝のマウンド。登板日のルーティンとなっているサウナと水風呂の温冷交代浴や、トレーナーによるマッサージでも疲労は抜けなかった。打たせて取る投球で4回まで2安打無失点でしのいだが、ストレートなのに120キロ台後半という球があるなど、前日までとは明らかに別人だった。
 
「どれだけ腕を振っても140キロ台後半が出なくて、『どうしてなんだ?』という気持ちがありました」

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