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【高校野球】4試合68奪三振。
桐光学園・松井裕樹はなぜ三振を奪えるのか? (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 そして3回戦で対戦した浦添商は、松井のスライダー対策としてバッティングマシンを打者から見て右方向に置いて角度をつけ、スピードも140キロ前後に設定するなど、角度とスピードの感覚に慣れようとした。また、右打者はクロス気味に構えてセカンド頭上を狙い、左打者は外へ逃げる球をショートへ打ち返すことを指示。さらに低めの見極めの精度とバットに当てる確率を上げるため、目線の動きが少ないノーステップ打法を実践していた打者も何人かいた。

 結果、毎回奪三振も18回でストップし、3回まで三振はゼロと、これまでの戦いとは違う形になった。ただ、終わってみれば浦添商の得点はホームランのみよる1点のみで、三振も中番以降に重ねられ12個。4番の呉屋良拓は松井との対戦をこう振り返った。

「対応できた部分もありましたが、チーム全体として途中から雑になってしまった。自分とすれば後半は球も見えてきましたが、練習で打った球とはやっぱり違いました。何より、腕の振りだけはどうしたって練習ではできないとわかりました」

 今から6年前の夏。智弁和歌山が前年秋の神宮大会で優勝した駒大苫小牧の田中将大(現・楽天)を倒すべく、冬の間もマシンを駆使し高速スライダー打ちへ挑んだことがあった。夏の甲子園準決勝で対戦は叶ったが、結果は田中の勝利。試合後、智弁和歌山の選手が口々に「マシンとは違いました……」と敗戦の弁を語っていたことを思い出した。ボールの曲がりはある程度再現できても、腕の振りは再現できない。松井のピッチングの肝もここにある。再び吹石氏の言葉を借りる。

「バッターとして一番厄介なのは、どの球種も同じ腕の振りで投げられることなんです。私は工藤(公康)とも対戦したことがありますが、彼のカーブは素晴らしかったし、松井くんのスライダーと似たものがあると思います。工藤もやっぱり腕を振って投げて来ていましたからね。今なら、ウチの田中のスライダーなんかもそうですよね。田中の場合はもっと球速もありますが、ストレートと思って打ちにいくから消えるんです。打者を騙せる腕の振りを持っている。これは大きな武器です」

 松井のスライダーばかり注目が集まるが、まず前提にあるのが質の高い140キロ台の真っすぐがあることだ。対戦したある選手は「どちらかだけでも対応できれば結果も変わってきたと思うんですが、どっちも良いとなると……」と言った。つまり、回転の効いたストレートと鋭い変化の両立を可能にするのがこの腕の振りであり、だからこれだけの空振りも奪えるのだ。

 他にも松井の素晴らしさはいくつもあるが、まだ2年生。検証すべき時間はあとの楽しみとしたい。

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