【自転車】片山右京「僕が子ども向けスクールを主催する理由」 (3ページ目)

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

 照れたような笑みを浮かべる片山に、なんだか高僧の悟りみたいな話になってきましたね、と少しまぜっかえしてみた。すると片山は、照れを隠すように大きく破顔し、さらに勢い込んで語り続けた。

「でもさ、おれが偉いお坊さんと違うのは、別にいい人を目指しているわけでもなんでもないからね。むしろ自分がサバイバルするための、バイタリティとエネルギーの話だから。ちょっとの食糧をもらって人のために祈るとか、そういうことじゃなくて、いつか絶対にエベレストを冬期無酸素登頂してやるという気持ちはなくならないし、そのために好きなカップ麺を食って、バイクで走り回って、好きなことをやり続ける。

 命っていうのは残念ながらいつかなくなるし、人間は歳を取っていく。でも、F1で時速300キロでの走行中、眼球が振動してなかば朦朧(もうろう)とするような状態のときに生きていることを実感できたり、エベレストの頂上直下で風が止んだときに自分の体内の音が聞こえたり、そういう感覚を自分は知ってしまったから、『愉しいぞ~!』って。これからも一所懸命、好きなことを続けていく。そういう大人たちがたくさんいることが、子どもたちに何よりいいメッセージにもなる。そう思うんですよ。

 理性や自制心とのバランスを持ちながら、チャレンジや冒険を続けていく――。それを支えるのは物理的な体力だし、チームワークだし、さらにオーバーに言えば、そういうものを受け入れられる社会づくりを目指していきたいんですよね」

(次回に続く)

著者プロフィール

  • 片山右京

    片山右京 (かたやま・うきょう)

    1963年5月29日生まれ、神奈川県相模原市出身。1983年にFJ1600シリーズでレースデビューを果たし、1985年には全日本F3にステップアップ。1991年に全日本F3000シリーズチャンピオンとなる。その実績が認められて1992年、ラルースチームから日本人3人目のF1レギュラードライバーとして参戦。1993年にはティレルに移籍し、1994年の開幕戦ブラジルGPで5位に入賞して初ポイントを獲得。F1では1997年まで活動し、その後、ル・マン24時間耐久レースなどに参戦。一方、登山は幼いころから勤しんでおり、F1引退後はライフワークとして活動。キリマンジャロなど世界の名だたる山を登頂している。自転車はロードレースの選手として参加し始め、現在は自身の運営する「TeamUKYO」でチーム監督を務めている。

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