【自転車】片山右京「僕が子ども向けスクールを主催する理由」 (2ページ目)

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

 たとえば、自転車競技でいえば、結果を出すのはエースライダーひとりだけど、じゃあなぜアシストライダーがいるのかというと、『そういうポジションが必要だから』ですよね。彼らはそういうアシストのプロだから、ファンも集まってくるし、スポンサーはその人たちにお金を払う。つまり、全員が一番じゃなくてもいいわけで、そこでご飯を食べていくためには、ポジションがあればいい。

 でも、その一方では受け入れなければならないものも、また、たしかにある。たとえば、人間は自然には絶対にかなわない。風を止めることはできないし、死はいつか必ず100パーセント、その人のもとに訪れる......。だから、その時々で必要な判断を迫られることはあるけれど、だからといって、あきらめる必要はないんじゃないか。自分が強くなろうとすることに、年齢は関係ないですからね」

 そのためにも、チャレンジスクールを通じて知り合った子どもたちには、たくさんの経験を重ねてほしい、と話す。

「子どもたちのいろんなレベルに合わせて、バックアップや後方支援は必要だけど、そこでいろんな経験をさせてあげることが、回り回って将来の大きな自信につながる――。そういうことってあるじゃないですか。たとえば、ロープで確保されながらでも、300メートルの崖の上に自分の足だけで立った......という経験は、きっと将来の人生ですごく大きな自信になる。疲れたり、恐怖を感じたときに、人間って自分の知らない部分が出るでしょ。そんなときにこそ、こういう経験はきっと効いてくるし、その人の貴重な財産になると思うんですよ。

 僕自身も、いろんな経験をしてきたことで、今はそういう部分のブレがないし、ましてやお金で惑うようなこともない。たしかに一時期、少しだけ勘違いして、クルマは大きいほうがいいし、運転してくれる人がいたほうがラクでいい、と思ったこともあったけど、そうすると運動不足で身体もダメになってきて、かえって良くない(笑)。今は23万キロ走ったプリウス(トヨタのハイブリッドカー)のほうがむしろカッコ良く思えるくらいだし、そもそもお金がないなら野宿をすればいい。クルマの中や事務所で寝ることだって、いまだに全然平気だし、オートバイに乗ったり自転車をこいでいると、どんどん元気になる。

 でも、その反面でまだダメだなあ......と思うのは、本当の意味で、まだ周囲に優しくなれない自分の弱さ。選手たちに対しても、一緒に働いてくれる周りの人たちや、自分と関わってくれる様々な人々に対して、もっと感謝の気持ちを持たなければダメなんだよなあ、と」

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