【新車のツボ98】
ジャガーFタイプ試乗レポート (2ページ目)
コクピットもタイトで、ドライビングポジションはドンピシャ。運転席を取り囲むような左右非対称レイアウトがまた、マニア感涙。要所にお決まりのレッドではなくオレンジをあしらうセンスもツボだ。
こうして往年のオッサンファンの涙腺をとことん刺激しつつも、新しくて、ちょっとニヤリとするセンスにもあふれて、だれにも分かりやすい。Fタイプは商品の工業デザインとはかくあるべし......の教科書のようなサンプルである。錦織選手ならずとも、ひと目ボレするのは痛いほど納得である。
Fタイプは走りや肌ざわりも分かりやすくスゴい。とくにも、とてつもないエンジン(550馬力!)を積む今回のFタイプRは、トラクションコントロールをカットしてひと踏みするだけで、リアタイヤからは煙モウモウ! ボタンひとつで笑っちゃうくらいの爆音(使う場所に注意!)をとどろかせる"アクティブスポーツエグゾーストシステム"というフルったギミックもつく。
とはいっても、自制心さえ保っていれば、これでも手に余るような暴れ馬(ジャガーだから暴れ猫か?)にならないのが、Fタイプの最新かつ優秀なスポーツカーたるところ。ボディはとにかくカッキーンと硬質。手応えに曖昧な遊びみたいなものはまったくないが、かといって締めすぎず、パワステも重すぎず、しゃなりとした快適さを絶妙に残すのがジャガー伝統のツボでもある。前後バランスもピタリと決まっているので、とにかくオーバースピードでカーブに入らない......ということを忘れなければ、十二分に安全で、掛け値なしのスーパーカー級に速い。
温暖な米国フロリダを拠点にする錦織選手は、当然のごとく、Fタイプでもコンバーチブルを愛車にしているらしい。ただ、純粋なスポーツカーとして走りのキレがより鋭いのはクーペであり、クーペはハッチバックボディなので実用性もクーペのほうが上。そして、なによりクーペ特有の猫背な後ろ姿にツボを刺激されるマニアは多いだろう。
とにかくカッコいい、速い、音がいい、作りもいい、そしてドイツ車やイタリア車ほど有名にすぎず、しかし高級車としての伝統と威厳もあって、どことなく懐かしいのに新しい......。スポーツカーにまつわる煩悩や欲望のツボを、Fタイプほど分かりやすく突っついてくれる例は、ほかにない。
【スペック】
ジャガーFタイプRクーペ
全長×全幅×全高:4470×1925×1315mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1810kg
エンジン:V型8気筒DOHCスーパーチャージャー・4999cc
最高出力:550ps/6500rpm
最大トルク:680Nm/3500rpm
変速機:8AT
JC08モード燃費:8.1km/L
乗車定員:2名
車両本体価格:1327万円
著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/
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