【新車のツボ97】
フィアット500S試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 今回もまた"500"である。この連載も今回で97回目になるが、スポーツモデルのアバルトも含めると、フィアット500系を取り上げるのは今回で4回目。しかも、前回取り上げたアバルト595コンペティツィオーネ(第94回参照)から、まだ1か月半しか経っていない。

 今回の500Sにしても、特別に新機軸が注入された500というわけではない。大まかにいえば、第10回で取り上げた0.9リッターのツインエアエンジン車のMT版。車名末尾の"S"は一応、スポーツという意味なので、ボディ前後にスポイラー風の仕立てが加えられて、アルミホイールもちょっとだけスポーティになっている。また、内装でもステアリングホイールがアバルトと共通形状の握りごたえのあるタイプとなり、シート表皮がジャージ風の滑りにくい生地になったりもしている。

 しかし、誤解を恐れずいえば、それだけだ。普通の500に対してSっぽいのは見た目だけで、エンジンやサスペンション、タイヤサイズは第10回のラウンジと基本的に共通。明確なちがいといえば、前記のように、2ペダルの自動式だった5速ギアボックスが、3ペダルの手動式になっただけの話である。

 しかし、昨年末に細部の仕様変更があり、それを機にたまたま500Sに乗ったら大感動。もう辛抱たまらず......というのが、性懲りもなく、また500を連れ出した真相である。

 以前も書いたように、フィアットの2ペダル自動MTは、同種のものとしては優秀で可愛げがあるタイプで、それなりに面白い。しかし、「乗り甲斐」という意味なら、根本的に両手両足を総動員する3ペダルMTのほうがツボなのは自明の理。

 しかも、2気筒という世界的にもレアなエンジンは、低回転ではブルンブルンと明確な振動があるいっぽうで、3000rpmくらいからいよいよ粒がそろって、震動もおさまって、ビィーンという独特のビート音に変わっていく。こうなるとターボも本格稼働。2000rpm以下では騒々しくてパンチにも欠けた印象が一転、6000rpmまでどんどんパワフルに勢いよく吹け上がっていくのだ。

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