【新車のツボ97】
フィアット500S試乗レポート (2ページ目)
電動モーターのようにほぼ無振動なフラットトルクなエンジンが増えるばかりの昨今にあって、これほど"美味しい領域"がハッキリしていて、回転上昇に応じてドラマを演じるエンジンは本当にめずらしい。そんなキャラの濃いエンジンの能力を、自分の才覚でMTを駆使して存分に引き出せた瞬間の気持ち良さといったら......もうたまらない。
基本的にコンパクトでメカニズムもシンプル、そしてタイヤ4本のスタンスも"小股"のフィアット500は、乱暴な運転に寛容ではない。500Sはタイヤサイズもごく普通で、タイヤ銘柄もなんてことはないエコタイプなので、基本に忠実なブレーキングや加速を意識して、荷重移動をうまく使わないと、きれいな弧を描く走行ラインにはならない。
ただ、すべての運転タイミングがピタリと決まってきれいなラインで走れると、とてつもなく快感である。そういう繊細な運転を意識するほど、アバルトと共通のステアリングや、身体に吸いつくように滑らないシート表皮による肌触りの微妙なちがいも、すごくありがたく思えてくる。
そう、500Sはエンジンも変速機も、フットワークも"うまい運転のツボ"がギッシリ詰まったクルマなのである。「運転免許を取得して1年未満の初心者は500Sに乗ることを義務づける」みたいな法律ができたら、ホント、日本人はみんな運転がうまくなって、クルマ好きになるだろうな......なんて、荒唐無稽な妄想すらしてしまう。
さて、フィアットは地元欧州ではさしずめ日産やホンダに匹敵するフルラインメーカーなのに、日本市場では「フィアットジャパンというより、500ジャパンかよ」とツッコミたくなるほど、500偏重の販売戦略を採る。
それはフィアット好きにはちょっと寂しい現実ではある。しかし、この500Sみたいな一部マニアのツボにぶっ刺さる500が日本で手に入るのは、そんな一点集中の戦略だからこそ......の側面もあろう。うーん、複雑な気分。
シツコイようだが、500Sは客観的にいえば特別な500ではない。でも、ホンの些細なちがいで、走りのツボ度がこれだけビンビンに跳ね上がるのだから、クルマは面白い。
【スペック】
フィアット500S
全長×全幅×全高:3585×1625×1515mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:1010kg
エンジン:直列2気筒ターボ・875cc
最高出力:85ps/5500rpm
最大トルク:145Nm/1900rpm
変速機:5MT
JC08モード燃費:26.6km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:225万7200円
著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/
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