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【新車のツボ75】
日産マーチ・ニスモS試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 専用チューンというエンジンも、絶対的にはどうってことない性能ながら、アクセルペダルに力を入れた瞬間から明確に加速態勢をとるレスポンスが刺激的。回転上昇に正比例してパンチがグイグイ出てくるのも古典的だけど快感。ガオガオ系のエンジン音に高級感はまるでなくとも、ヌケがいい音質なので素直に迫力。これをシフトレバーをカキコキして自在に操れるんだから、こりゃたまらない。

 ハンドリングや乗り心地も同様だ。イマドキはどんなに速いスポーツカーでも、しなやかで快適で洗練されているのが基本......の時代だが、マーチ・ニスモSはかぎられた基礎能力を、とにかくギッチギチに補強して締め上げた感じ。良路では許容範囲の乗り心地も、路面が荒れると明確にズンドコ系になるし、いろんな騒音は直接的に耳に入るし、身のこなしは上品なしなやかさとは正反対だ。

 それでも、操縦性はとにかくキレッキレ! その走りはまるでパチンコ玉のように弾ける。サスペンションが根本的に硬くて、ボディも小さいのでアラっぽい運転への許容範囲はせまいが、ときに跳ねたり暴れたりしそうになるのを、自分の創意工夫でなだめすかして乗りこなしたときは、そりゃもう至福の快感......というタイプのクルマである。

 今回もまたオヤジの昔話になってしまうが、このマーチ・ニスモSのように、安くて、日常で楽しめる程度にちょっと速くて、ハマった人にはどんな高級車より美味しい......というクルマはたくさんあった。マーチ・ニスモSはそんな"クルマ版B級グルメ"の典型であり、いまという時代にこの種のツボを押さえたクルマは本当に貴重である。

 最後に、マーチ・ニスモSの名誉のため付け加えておく。このクルマは多少ヤンチャすぎる面もあるが、高速ではステアリングに手を軽く添えるだけでズバーンとまっすぐ走るし、前出の鬼グリップタイヤ(ポテンザRE11)にボディやアシの剛性が負けた感がまるでない。これらの点はお世辞ぬきで感心する。

 マーチ・ニスモSは古典的だが、古臭いわけではない。このクルマの本当のツボは、なんだかんだいっても意外に悪くないマーチの血筋と、考えられる手を尽くしてつくった人たちのセンスと情熱、そしてプロフェッショナルな仕事っぷりである。

【スペック】
日産マーチ・ニスモS
全長×全幅×全高:3870×1690×1495mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1010kg
エンジン:直列4気筒DOHC・1498cc
最高出力:116ps/6000rpm
最大トルク:156Nm/3600rpm
変速機:5MT
JC08モード燃費:-km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:177万300円

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