【新車のツボ63】フィアット・パンダ 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 ただし、その理由は「ラテンの明るく熱い国民性」だとか「イタリアデザインのセンス」みたいな捉えどころのないイメージではない。いや、パンダのデザインセンスは素晴らしい。高価な素材はなにひとつ使わず、内装は安っぽいプラスチック感が丸出しなのに「丸っこい四角形」のモチーフを、内外装にこれでもかとリフレインする。安くてもオーナーを貧相で哀しい気持ちにさせない......のは、安グルマの老舗フィアットの真骨頂である。

 しかし、パンダの楽しさ、あるいは乗る人間をクルマ好きにさせる本当のツボはそこではない。ひとえにクルマの"運転"あるいは"移動"という行為に、パンダはどこまでも真摯に向き合ってつくられているからだ。

 パンダはデザインセンスが高くても、内外装品質はクラスなりに安普請だ。ただし、シートはしっかりコシがある座り心地で、ステアリングは径も大きく握りもしっかり、ギアボックスにエンジンマウントにサスペンション......と、人間が実際に触れる部分と走りに直結する部分はケチっていない。

 安価なのは構造がシンプルだからで、強度はたっぷり。たまにしか使わない後席は割り切っても、運転席の調整幅は広くてあらゆる体形にぴたりとフィット。人間が手足で操作するものはすべて、あるべき場所にあるべき手応えで配置と調律がしてある。

 日本の実用車の多くは、街中をトロトロ這いずるような低速重視のクルマづくりで、渋滞や駐停車時の微細な使い勝手に目が向いている。まあ、日本ではそれが大半の人がクルマに求めるものなのだから、それ自体を否定はしない。

 ただ、パンダのクルマづくりはその正反対だ。小さくて安いクルマなのでどんな場所をどんなスピードで走っても快適......とはいかず、パンダは日本の渋滞速度ではギクシャクしたり、乗り心地が少し硬めだったり......なのは事実。しかし、高速道やちょっと曲がった山坂道など、クルマをクルマらしく走らせるほど、パンダはすべての調律が合焦して、ドンピシャに快適でリアルな手応えを醸し出す。2気筒エンジンはちょっとクセある性格だが、エンジンが気持ちよく働く領域(具体的には3500~4000rpm以上)になると、とたんにスムーズで力強くなる。

 そうやってパンダをパンダらしく走らせると「やっぱりクルマっていいもんだな」と素直に思える。これはお世辞ではない厳然たる事実。そして、そのまま遠くまでどこまでも走っていきたくなる。こういうパンダこそ「クルマのツボをわかったクルマづくり」ってもんである。

【スペック】
フィアット・パンダ・イージー
全長×全幅×全高:3655×1645×1550mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:1070kg
エンジン:直列2気筒ターボ・875cc
最高出力:85ps/5500rpm
最大トルク:145Nm/1900rpm
変速機:5AT
JC08モード燃費:18.4km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:208万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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