【新車のツボ63】フィアット・パンダ 試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 フィアット・パンダは、日本車でいうとトヨタ・パッソ/ダイハツ・ブーンと同じくらいの大きさのスモールカー。欧州ではこれが最小かつ最安クラスで、いわばイタリアの軽自動車みたいなもの。イタリア車といえば、日本だとファッションアイテム扱いされがちだが、欧州でパンダに気取って乗る人はまずいない。ただの実用ゲタグルマである。

 もっとも、日本仕様のパンダは"0.9リッター2気筒ターボ"というハイテク最新鋭のダウンサイジングエンジン車のみで、従来だと1.4~1.5リッターに相当する上級グレード。日本での価格は208万円と意外に安くないが、パンダが日本車なら安いモデルで120万円くらい、上級グレードでも140~150万円......で売られるであろうクルマである。シツコイようだが、パンダは良くも悪くも安グルマだ。

 軽自動車の例を出すまでもなく、昨今の日本車の"室内の広さ"と"小技の効いた便利さ"への追求っぷりは尋常でない。パンダはその点、純粋な居住空間でひとまわり小さな日本の軽自動車にかなわない。後席は子供や小柄な女性には十分だが、大柄な大人が前後に座ってしまうとハッキリとせまい。

 "ツインエア"と呼ばれる2気筒エンジンはフィアット500(第10回参照)と同じで、ブルブルという独特の震動とノイズはそれなりに強烈(簡単にいうと騒がしい)。内装の仕立て品質もまあ価格なり。リアウインドウにいたっては、最近の国産車ではほとんど見かけない手回し式である(笑)。なにはなくとも200万円を超える価格なのに......である。

 では、この日本であえてパンダを買って乗るのは「イタリア車という理由だけで割高なクルマに喜んで乗るカッコつけ行為」なのか......というと、断じてそうではない。

 パンダに乗ると素直に楽しい。これは本当だ。そして多くの場合、クルマが好きになる。

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著者プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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