投資教育が始まった高校で野球部の生徒が「デフレ」を考える。旅行支援が歪めるモノやサービスの値段 (4ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

【社会保障費は聖域なのか】

奥野「そうだね。鈴木君、君は決してバカではないよ。いびつな感じがする最たるものがまさに防衛費の問題だからね。

 中国と台湾が今、緊張状態にあって、ひょっとしたら戦争になるかもしれないという。それは直接、日本とは関係のない揉めごとなんだけど、もしそうなったらアメリカが黙っていない。沖縄に駐留している海兵隊、陸軍、海軍、空軍の4軍が出撃していく。そうなったら、日本も戦争当事国になってしまう。中台問題は日本が主体的に関わることができない事案であるにも関わらず、完全に巻き込まれてしまう......。

 このように説明されると、100人中100人が『防衛費を増やしたほうがいい』と思う一方で、でも『増税は嫌です』と言う。おかしいでしょ。

 現在の日本の防衛費は、2022年度当初予算で5兆1788億円。仮にこれを倍にすると、5兆円ちょっと増えることになる。増額分の財源の候補として所得税や法人税、たばこ税が挙がっていたけど、そんな額は社会保障費を少し削れば簡単に捻出できる。だって、コロナ関連予算だけで70兆円を超えているんだから。それからすれば、5兆円なんて驚くほどの金額ではない。

 でも、高齢者は最大の票田だから、政治家は絶対に『社会保障費を削らせてくれ』とは言わない。政治にとって最も大事な、国民の信を問おうとしないわけです。これ、ちゃんと説明すればわかってくれると思うんだけどね。『あなたの3割負担を4割負担にさせて下さい。その分を防衛費や若い人のために使います』と言うべきだし、そうすれば高齢者も『絶対に負担が増えるのは嫌だ』とは言わないと思う。

 とにかくこの20~30年、国民が苦しいとなると、国は大盤振る舞いでお金を配り続けてきた。ずーっと低金利を続けてきたのもそうだし、その大盤振る舞いのお陰で、何の付加価値も生まないようなゾンビ企業が、たくさん生き残っている。いい加減、潰すべきものは潰さないと、この国はもたなくなっちゃうかもしれないね」

【profile】
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は4000億を突破。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』『投資家の思考法』など。

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