投資教育が始まった高校で野球部の生徒が「デフレ」を考える。旅行支援が歪めるモノやサービスの値段
この記事に関連する写真を見る奥野一成のマネー&スポーツ講座(18)~旅行割で考えるモノの値段
集英高校の野球部顧問を務めながら、家庭科の授業で生徒たちに投資について教えている奥野一成先生。前回、3年生の野球部女子マネージャー・佐々木由紀と新入部員の野球小僧・鈴木一郎は、先生から「投資と投機の違い」について話を聞いた。日常用語としても使われている「投資」という言葉に深い意味があることを知った。
すでに進学先の目途がついている由紀と、受験なんてまだまだ先のことと考えている鈴木の3学期。のんびりした冬休みの話を続けている。
鈴木「由紀さんは冬休み、どこか行ったんですか?」
由紀「初詣に行ったくらいで、どこにも。鈴木君は?」
鈴木「残念ながら僕も。直前になって、家族が『安く行けるから』と旅行を企画し始めたんだけど......」
由紀「確かに安くなるという話、あるわね」
ふたりが話しているのは旅行割のことだろう。
新型コロナウィルスの感染拡大が始まった2020年春以降、政府はさまざまな経済対策を打ち出すことになる。この年の4月には、早くも1兆6794億円が、旅行・飲食・イベントなどの需要喚起事業としての「Go To キャンペーン」に充てられることが決まった。その後、感染者の増加にともなって実施自体に賛否が巻き起こり、さらに不正受給が問題になるなどのトラブルが発生。ただしその後も、さまざまな形で観光振興対策が行なわれている。
「全国旅行支援」は2022年10月11日より全国46道府県で開始された(東京都は10月20日から開始)。その概要は、割り引かれる代金は40パーセント。割引額の上限は交通費込みのパック旅行で8000円、宿泊のみまたは日帰り旅行で5000円。さらに買い物や飲食に使えるクーポンが平日3000円、休日は1000円分配布されるというもの。都道府県ごとに旅行割引の事務局が設けられている。
この「全国旅行支援」制度は、予算を使い切って年内にいったん終了したが、2023年1月10日から割引率を下げる形で再開している。
由紀「行かなきゃ損、みたいなことになっているのね」
そこへ奥野先生が話に加わってきた。
奥野「実は先日、関西に行ってきたんだよ」
鈴木「お、旅行割狙いですか?」
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