投資教育が始まった高校で野球部の生徒が「デフレ」を考える。旅行支援が歪めるモノやサービスの値段 (2ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

【割引で損なわれる客との関係】

奥野「結果的に料金が割引になったのは確かだよ。ただし、そこで考えたのはちょっと別のことなんだ。研修があって昨年末、関西に行ったのだけど、1泊いくらで泊まれたと思う?

 たまたまワクチン接種証明書を持っていたので、それを出したら旅行代金の40%が割り引かれたんだ。泊まったところが1泊6000円の安いビジネスホテルだったから、40%の割引で3600円になった。

 しかも、平日は3000円の地域振興券が出たから、コンビニの買い物とか、地元の飲食店などで使えるので、これも経験だと思って地元の居酒屋に行きました。食べ、かつ飲みました。ひとり3500円。でも地域振興券を使って、実際に払ったお金は500円。これってどうなんだろうと、いろいろ考えてみたんだ。

 それで出た結論としては、これはただの甘やかしなのではないか、ということなんだよ。

 たとえば僕が入った居酒屋のおやじさん。客である僕に対して、本当に真剣に向き合ってくれるのだろうか。恐らく、おやじさんはこう思うんじゃないかな。

『確かに3500円だけど、お客さんが払ったのは500円だよね。3000円は国が払うお金だよね』

 こうなると、おやじさんの目は僕のほうを向かなくなっちゃうんだよね。

 で、僕自身も自腹はたったの500円だから、なんか作ってくれた食べ物に対して真剣に向き合っていないような感じがしたんだ。

 モノやサービスを提供するのに、お客と直にやりとりをする商売で、これは明らかにマズイんじゃないかって思ったんだよね。お客さんは、おやじさんが作る料理が美味しかったから、3500円の値付けに納得するのだし、おやじさんもお客さんが喜んで3500円を払ってもらえるようにしたいから、頑張って美味しい料理を作ろうとする。こういうギラギラした緊張関係があるから、よりよいものが出来上がってくるんだ。

 でも、この両者の関係に国が介入してくると、いいものを作るための緊張関係が崩れてしまう。お互いに真剣さがなくなる。その先にあるのは人心の退廃じゃないのか、という気さえしたんだよ」

鈴木「うーん、僕なんか、ただならどんどんもらってしまえって思っちゃうな」
由紀「ただ、国から補助がもらえるからどんどん遊びに行ってしまえって、なんか少し浅ましい感じがするかも」

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