スーパースター必ずしも「富裕層」にあらず。日本人の収入が増えない理由を解き明かす (4ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

根強い「富裕層」に対する誤解

奥野「だから、そういう人を相手にして、ちゃんと付加価値の高い商売をすれば確実に儲かるだろうし、世界に目を向ければ、この10年間だけでもこれだけ富裕層の人口が増えているのだから、ビジネスチャンスはもっと広がるはずなんだ。そこをターゲットにすれば、日本企業の売上と利益はもっと増えるだろうし、それが働いている人たちの収入にも反映される。つまりもっと豊かになれる。

 そういうチャンスがあるのに、過去の成功体験に縛られて、今でもコツコツ安いものをたくさん作って、『儲からない、儲からない』って言っている日本って、いったい何なんだろうね」

鈴木「お金儲けは悪っていうイメージが強すぎるのかな」
由紀「お金は持っているのだけれども、節約することを美徳に捉える人も結構多いですよね」

奥野「『富裕層』に対する誤解が、この国には結構、根強いと思うんだ。なんとなく、あくどいことをして現金を貯め込み、それをガッチリ握っているようなイメージ?

 でも、それは違うんだよ。富裕層の大半は現金で富を持っているんじゃなくて、株式や土地などの資産で持っているんだ。現金をしっかり握っているような人は、それが1億円だろうと10億円だろうと、決して本当の意味での富裕層とは言わない。少なくとも僕はそう思っている。そういう人は、お金に支配されている人たちなんだ。

 本当の富裕層というのは、お金を稼ぐのと同時に、そのお金をビジネスに投資している。こうして本当にいい企業のオーナーになる。もちろん、それによって大きなリスクを抱えるのだけれども、それが世の中のためになると信じていて、多額の自己資金を投入するんだ。

 そして、その企業のビジネスが世の中のためになれば、多くの人から感謝される。お金は決して汚いものではなく、実は『ありがとう』の印でもあるんだ。その結果、世の中が少しずつよくなっていく。これが資本主義の原理なんだよ。

 日本で富裕層の話をすると、『格差が問題だ』とか、『貧富の差をなくせ』などと言って、結果的に出る杭を打つような結果になってしまう。これは本当に残念なことだよね。日本の将来を考えて立派な行動を取っている富裕層がいなくなったら、日本はもっと悲惨な状況になってしまう。そのことをしっかり理解するべきだし、そういうことこそ、学校の金融教育で教えるべきなんじゃないのかな」

【profile】
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は4000億を突破。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』『投資家の思考法』など。

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