スーパースター必ずしも「富裕層」にあらず。日本人の収入が増えない理由を解き明かす (2ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

牛丼の価格に見る日本経済

奥野「象徴的な話を例に挙げて言うと、たとえば、牛丼屋さんの価格推移を見てみればよく理解できると思う。

 今、某大手牛丼チェーンの並盛の値段は426円なんだけど、つい10年ほど前の2013年時点では280円だったんだ。9年間で5割の値上げになったのだけれども、実は1990年までさかのぼると、400円なんだよね。そう考えると、2013年の280円というのが、ちょっと異常値だったのかもしれない。

 そこからさらに10年さかのぼって2003年。BSE(狂牛病)問題でアメリカ産牛肉の輸入制限が行なわれた結果、大手牛丼チェーンから牛丼が消えたことがあったんだ。代替商品として『豚丼』が登場したのも、この時の話。それがきっかけで、今の牛丼チェーンは牛丼のみの一本足打法から脱して、商品のバリエーションを大きく増やしてきたという歴史があるんだよ。

 で、280円まで値下げした時の話なんだけど、2013年2月にアメリカ産牛肉の輸入制限が緩和されたんだ。これによって、アメリカ産牛肉が安く輸入できるとふんだ多くの牛丼チェーンが、販売価格を大幅に下げたとも言われたんだけど、それは今回の本筋とは少し違う話なので、ここまで。

 じゃあ、今の426円が高いのか、安いのかという点で言えば、明らかに安いでしょう。1990年が400円で、今が426円なのだから、この30年でほとんど値上がりしていないのも同然なんだ。

 ちなみにアメリカに進出した牛丼店で牛丼の並盛を食べると、1杯の値段は6.59ドル。1ドル=150円で計算すると、1044円だから、日本の値段の倍というイメージだね」

鈴木「円安の影響もあるとは思いますが、ここまで差が開くとは......」
由紀「これじゃあ、アルバイトの時給も上がらないですよねー」

奥野「日本って、今は経済大国のひとつになっているのだけれども、第二次世界大戦の終戦直後は主要都市が一面焼け野原で、多額の戦後賠償金を考慮すると、実質的にゼロどころかマイナスからのスタートだったんだ。だから、今で言うと新興国だったわけ。

 とにかく皆、貧しくて、モノが不足していたから、企業は大量にモノをつくって、それを安い値段で供給することに全力をあげたんだ。

 しかも安いだけでなく、改良に改良を重ねて壊れにくいモノを大量生産して、日本国内だけでなく海外にもどんどん輸出した結果、『メイド・イン・ジャパン』は高い評価を受けて日本企業は大きくなり、人々の生活も豊かになった。これが日本人の成功体験なんだよ」

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