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【マラソン】高校時代はサッカー部、陸上初心者の大石巧は箱根駅伝常連校に自ら電話をかけて売り込み (3ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Shun Sato

【1年目から、まさかの箱根のエントリーメンバー入り】

 大石は、1年目からAチームに属し、箱根駅伝のエントリーメンバー16名に入った。

「1年の時は、ギリギリで16名に入った感じで、走れるとしたら6区かなと思っていました。それで仮想6区(の練習コース)を走りにいく予定だったのですが、当日の朝、寝坊してしまって......。最悪ですよね。走る前から負けていました。ただ、箱根は夢じゃない、ちゃんと頑張れば、手の届くところにあるんだなっていうのがわかって、やる気がいっそう高まりました」

 2年目は、残念ながらチームが予選会を通過できなかった。捲土重来の3年目、城西大は予選会を突破し、大石は箱根での希望区間を櫛部監督に伝えた。

「『1区にいかせてください』と伝えました。1区はシンプルに華がある。ヨーイドンで走って、他大学の選手と勝負したかったんです。でも、監督には『お前は上りが強いし、単独でも走れる。復路が向いているので8区を頼む』と言われました。今思えば、監督の信頼を十分に勝ち取れていなかったのかもしれません」

 第94回箱根駅伝、大石は8区4位と好走し、チームの総合7位に貢献した。

 箱根を走ったインパクトは大きかった。LINEの通知は鳴りやまず、地元に帰ると、友人知人に「観たよ」「応援しているよ」と声をかけられた。

「箱根の力を感じましたね。そういう経験が初めてだったのでうれしかったですし、応援してくれる人がいると、すごく力になるんだなと思いました。この時から、自分のためだけではなく、応援してくれる人のためにもいい走りをしたいという気持ちが徐々に大きくなっていきました」

 4年生になり、大石は最後の箱根での目標を「区間賞」「(チームは)過去最高の総合5位」とした。チームには、前年の箱根を走った4年生が多くいて、客観的に見ても、シード権(10位以内)、さらに上位を狙えるだけの戦力があった。出雲、全日本と過去最高順位(いずれも8位)で城西史上"最強世代"と言われていた。大石自身にも戦える自信があった。

 だが、本番を前に、チームはいまひとつピリッとしなかった。

「今の城西大はみんな真面目で強いですけど、自分たちの時は和気あいあいとしていて、いい意味でのバカが多かった。明るくていいチームでしたが、一方で、自分を含む上級生が後輩を引っ張っていくような感じではなかった。チームの結束力という部分で足りないというか、強いチームのピリッとした雰囲気はなかったですね」

 それでも本番になれば走れるだろうと、楽観視していた。しかし、大石は8区21位に終わり、チームも総合20位に沈んだ。

 最後の箱根は不完全燃焼に終わったが、箱根を走った経験は、その後の大石の競技人生にどんな影響を与えたのだろうか。

「箱根は、沿道の人の数が圧倒的で、『歓声で耳がキーンとするよ』と言われていたんですけど、その通りでした。監督の乗る運営管理車がつくのも箱根ならではですけど、いいものだなと思いましたね。3年の時、櫛部監督に『今までで一番の走りをしているぞ』って言われて、そんなに褒められるのは初めてだったので、うれしかったです。

 そうしたところも含めて、これまで箱根を超えるようなレースはまだ経験したことがありません。もう一度、そういう舞台で走りたいですが、それはMGC、オリンピック、世界陸上しかないと思うんです。『またそういうところで走りたい』。そう思わせてくれたのが箱根駅伝でした」

(つづく)

後編を読む>>>大学から陸上部に入って箱根駅伝出場「超異色マラソンランナー」大石巧のMGC、ロス五輪に懸ける思い

大石巧(おおいし・たくみ)1996年生まれ、静岡県磐田市出身。袋井高ではサッカー部に所属していたが、箱根駅伝を走ったいとこの姿にあこがれ、3年春に陸上転向を決意。ほぼ初心者ながら、いくつもの大学に電話をかけるなど進路を模索。入学した城西大では、3、4年時に箱根駅伝の8区(区間4位、21位)を走った。実業団入り後はケガに悩まされるも、自身6度目のマラソンとなる昨年12月の福岡国際マラソンで2時間0851秒(総合4位、日本人3位)を出し、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ/2028年ロサンゼルス五輪マラソン日本代表選考会、202710月開催予定)出場権を獲得した。

著者プロフィール

  • 佐藤俊

    佐藤俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)、「箱根5区」(徳間書店)など著書多数。近著に「箱根2区」(徳間書店)。

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