"山の名探偵"工藤慎作(早稲田大)が振り返る3度目の箱根駅伝5区と黒田朝日(青学大)との距離感 (2ページ目)
【想定していた黒田の出走】
実は、事前に工藤が警戒していた5区候補が黒田だった。もっとも、黒田は3年連続の2区起用が濃厚で、"5区に起用されるなら"という仮定のうえでの話だったが、当日変更でそれが現実になった。
1月2日の朝、小田原中継所に黒田が現われると5区走者の間で驚きと動揺が走ったという。だが、工藤は「前日に風の噂で黒田朝日さんが5区に来るっていうのを聞いていました」と言い、当日には特に動じることはなかった。噂を耳にした時点で、自分の走りに徹しようと覚悟を決めていたからだ。
黒田とは小田原中継所の時点では2分12秒の差があった。その差が一気に詰まったのが、小涌園前の付近だった。
「小涌園前のあたりは一瞬傾斜が緩くなるんです。前回は調子がよかったので、ここでギアチェンジしてリズムを作り直したんですけど、今回はそこで休憩するしかなかった。でも、黒田さんはここで(1km)3分4秒とかで走っていて、一気に15秒から20秒も詰められてしまいました」
大平台では1分57秒差だったのが、小涌園前の定点(11.7km)では、1分02秒差に詰まった。さらに、国道1号線の最高点手前の芦之湯(15.8km)では15秒差にまで迫っていた。
「臀部もハム(ストリングス)もパンパンでかなり脚が重たくて、最高点付近では完全に脚が止まっていました」
そう感じるほど限界が近づいていたが、工藤は後ろを振り返ることなく、なんとか脚を前に運び続けた。
初めて黒田を目視したのは、最高点を過ぎて下りに入ってからだった。
「監督からの声かけでは、下りではあまり詰められていないって聞いたんですけど、元箱根の360度のカーブで確認したら、思ったより近くまで来ていたので、こりゃあ抜かれるなって思いました」
そして残り1.5km。ついに追いつかれてしまう。もちろん工藤は食らいつこうとしたが、黒田とはピッチが明らかに違い、なす術がなかった。
「ついていこうとしましたけど、追いつかれた時点で、すでに限界に近い状態でした。あと1kmちょっとなんで、明日のために1秒でも広げられないようにと意識して走りました」
逆転され、突き放されたあとは、ただただ懸命に往路のフィニッシュを目指した。結局、工藤は、黒田から18秒遅れて芦ノ湖にたどり着いた。
「もう、悔しいのひと言に尽きます」
工藤は1時間09分46秒で区間3位と、決して悪い走りではなかった。だが、"山の名探偵"をもってしても、1時間07分16秒という驚異的な区間新記録を打ち立てた"シン・山の神"黒田には太刀打ちできなかった。こればかりは黒田を称えるしかない。
こうして早大の総合優勝のシナリオは、往路で崩れた。
著者プロフィール
和田悟志 (わだ・さとし)
1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。
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