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【東京世界陸上】女子マラソンの新ヒロイン・小林香菜、驚異の猛追を生んだ「鬼ごっこみたいな感じ」と「徹底した暑熱対策」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【給水ポイントのたびに氷入りのキャップを交換】

 そんな彼女の走りで目を見張ったのは、徹底した暑熱対策だ。各給水ポイントでは、スペシャルドリンクに加え、氷を入れた新しいキャップを受け取り、そのつばには手に持って走るための保冷剤までつけていた。暑さによる消耗を最小限度に抑えていたのだ。

 30km手前で11位まで順位を下げたが、時折苦しい表情を浮かべながらも自分のペースを守り、31km過ぎには10位に、35km手前で8位に上がった。蒸し暑さで急激にスローダウンしてきた選手を次々に拾った。さらに前を走っていたマグダリン・マサイ(ケニア)の途中棄権で7位に上がった。

 終盤は沿道からの声援が小林の背中を押した。早稲田大時代のサークルの仲間や、所属の大塚製薬の社員も大勢駆けつけていた。ひときわ小柄な体で、歯を食いしばって必死に走る小林に、誰もが大きな声援を送った。小林は最後までファイティングポーズを崩さず、帽子を取り、笑顔で42.195kmの旅を終えた。

「ここまで、正直、つらかった。楽しいことよりもつらいことのほうが多くて、長く競技を続けるのは、ちょっともういいかなって思うぐらいでした。でも、この道を選んでよかったですし、ここまでがんばってきて本当によかったです」

 小林は涙交じりの笑顔を見せた。今年1月の大阪国際女子マラソンでパリ五輪・マラソン代表(6位入賞)の鈴木優花に競り勝ち、東京世界陸上の切符をつかんでから、わずか9カ月弱。レース前の会見では、「楽しみはあまり持てない。ちょっと怖いというか、早く終わってほしい」と不安そうな表情を浮かべていた。

 だが、それは杞憂に終わった。陸上エリートではないたたき上げのタフさに加えて、まだ24歳と若く、どこまで成長するのかわからない伸びしろ。今後のさらなる飛躍に期待したい。

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。

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