田中佑美「足が速くなった」ゆえのジレンマ 100mハードル新女王は「全力を出す怖さ」をどう克服したのか (4ページ目)
【世界で戦うための伸びしろ】
その2件というのが、5月29日のアジア選手権と6月1日の布勢スプリントだ。
優勝を狙ったアジア選手権では、後半にインドの選手に逆転されて2位に終わっていた。不完全燃焼ゆえ、韓国から帰国してすぐに鳥取に向かって布勢スプリントに出場したが、そこでも3メートルの追い風を受けて、うまく対応できず、寺田と清山に先着を許した。
「全力を出す怖さがあった。でも、全力を出さないと3位以内に入れない」
そんなジレンマを抱えて日本選手権を迎えた。
ただ、2度の失敗から練習で対策は講じてきた。「やるべきことは音が鳴ったら出ること」と、悩みを振り払って決勝に臨んだ。そして「ある程度、想定のスピード内で練習してきた抜き足ができた」ことが、日本選手権の初優勝につながった。
しかしながら、今回は勝負に徹した結果。解決の糸口は見えたものの、まだ課題は残ったままだ。
「自分のトップスピードのマックスが出せたかというと、そうではないと思います。トップスピードを出して、そこに対応しきることが、もう一段階、上に行くために必要だと思っています」
考え方を変えれば、世界で戦うための伸びしろと捉えることもできる。そのハードリングが完成した時、世界のファイナルも見えてくるのではないだろうか。
日本選手権の優勝で、ワールドランキングに反映されるポイントも7点加点され、世界選手権の日本代表がグッと近づいた。
「これで3位以内に入れなかったら、参加標準を切れるまで『帰れま10(テン)』が発生する予定だったんですけど(笑)。一応、一番を取らせていただいたので、今後は自分のベストなコンディションになるように、コーチと相談しながら決めたいと思います」
今後は国内で調整し、世界選手権に向かっていく。
初めて出場した世界選手権は2023年のブダペスト大会で予選7着に終わり、世界の壁に跳ね返された。
昨年のパリ五輪は敗者復活戦を勝ち上がり、準決勝に進出。一歩前進した。
そして今秋。まだ内定はしていないものの、3度目のシニアの世界大会ではどんな走りを見せてくれるだろうか。
著者プロフィール
和田悟志 (わだ・さとし)
1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。
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