田中佑美「足が速くなった」ゆえのジレンマ 100mハードル新女王は「全力を出す怖さ」をどう克服したのか (3ページ目)
【勝てる時に勝つことの難しさ】
そして迎えた最終日。女子100mハードル決勝は最終種目として行なわれ、大会の大トリを飾った。
スタートから飛び出したのが4レーンの田中だった。右どなりの福部を常にリードし、そのままトップでフィニッシュに駆け込むかと思われた。しかし、7レーンの中島が終盤に猛烈な追い上げを見せ、ふたりは並ぶようにフィニッシュラインに駆け込んだ。
記録が確定するまでには時間を要した。その間には電光掲示板に確定前の結果が表示され、勝者が二転三転し混乱を招いた。それほどの接戦だったというわけだ。
「本当に集中していたので、自分が何番だったかわかっていませんでした。最初に自分の名前が出たあと(中島)ひとみさんが(1位と)表示されたので、見えないところで抜かれたんだろうなって思っていたら、また繰り上がって自分の名前が出て、驚いてうれしかったです」
フィニッシュから約3分後、1位に再表示されたのは田中の名前だった。
記録は100分の1秒単位では同タイムながら、着差あり。1000分の1秒単位で計測され、田中が12秒852で中島が12秒855と、わずかな差での決着となった。
「力を出しきったレースになったので、よくはないけど、1番でも2番でもいいかっていう気持ちでした」
こう振り返るが、これが田中にとって初めての日本選手権のタイトルだった。
「私は、どちらかというと、そういったタイトルを逃してきたタイプなので、勝てる時に勝つことの難しさを知っている。だからこそ、不安がたくさんあったんですけど、それをひとつ乗り越えることができたと思います」
ついに辿りついた悲願だった。
今季の田中はスプリント能力に磨きがかかり、確実に「足が速くなった」という実感があった。しかし、それゆえの課題にも直面していた。
「トップスピードが上がり、後半になるとハードルが詰まってしまって、抜き足をぶつけてクラッシュしてしまう事例が2件ほど続いていた」
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