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17歳の久保凜、陸上日本選手権女子800m2連覇までの成長の軌跡はそのまま9月の東京世界陸上に (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

【世界陸上出場の可能性は高いが目標はあくまで参加標準記録突破】

力強いストライドで世界を目指す久保凛 photo by Nakamura Hiroyuki力強いストライドで世界を目指す久保凛 photo by Nakamura Hiroyuki そう話す久保も、昨年から一気に注目を浴びるランナーとなるなか、「やっぱり去年がすごく活躍できたシーズンだったので、そこから今年に入る時はちょっと不安というか、『今シーズンもいけるのかな』という気持ちはあった」と話す。それでも4月の金栗記念は2分02秒58で走って2連覇を果たすと、400mで54秒68の自己新を出してから臨んだ5月3日の静岡国際ではオーストラリア勢を相手に、セカンドベストとなる2分00秒28で優勝と勢いに乗った。

 だが、その8日後の木南記念は、悔しい結果となった。ペースメーカーがついた1周目は先頭で通過しながらも、2周目でテス・キルソップ・コール(オーストラリア)に交わされ、0秒63差の2分02秒29で2位に終わった。

「1周目は58秒でいくというのでうまく前で引っ張ってもらってリラックスして走ったけど、2周目に入ったぐらいから足の感覚が静岡国際の時とは違ってすごく重く感じて、レースをうまく作ることができなかった。静岡の時もあの選手(キルソップ・コール)もすごく調子がよくて(久保に次ぐ2位)、『木南でも注意しなければ』と思っていたけど、2周目は全然余裕がなかったので『抜かれるだろうな』と思いながら走っていました。あの状態からすると抜かれて当然かなと思います」

 こう話した久保は続けて、「静岡で調子が上がっていたので、今日は絶対に(世界陸上の)参加標準記録を切ると思って臨んだし、地元・大阪の大会で応援もたくさん来てくれているからそれに応えたいと思っていた。今日は母の日(5月11日)だったので優勝の花束を持って帰りたいなって思ったけど、そこもうまくいかなくて悔しかった」と涙を流した。

 だが帰宅後、久保は母親から「頑張ったからいいんじゃないの」と言われたことで、「絶対に記録を出さなくてはいけない」という気持ちになりすぎて、走ることを楽しめていなかったことに気がついたという。それもあって5月末のアジア選手権(韓国)では、楽しんで走ろうと臨み、サードベストの2分00秒42で2位という結果を残した。

 そうした流れのなかで果たした日本選手権2連覇と日本記録更新。「気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうといい走りができないことが最近わかってきているので、もう何も考えずにいこうと思っています」と久保は笑顔で言う。

 世界陸上に向けては「中学から陸上を始めて、世界の舞台というのはめちゃ遠い存在だなと感じていました。でも今回もう一度1分59秒台を出すことができて、『目の前にまで来ているな』という気持ちになったので、もっとレベルを上げて世界に通用する選手になりたいと思っています」と話す。

 久保は現時点では、世界陸連制定の世界ランキング出場枠56(女子800m)のなかで、今回の日本選手権の結果がカウントされていない段階で42位につけている。そのうえ、日本陸連が設定している開催国枠出場エントリー設定記録(*)の2分00秒99も突破済みのため、世界陸上出場の可能性は高い。だが、それでも参加標準記録突破への意識は高い。それを突破してやっと、世界で戦う位置にいけると考えているからだ。

*世界陸上では参加標準記録と世界ランキングの出場枠内に開催国である日本の選手がいない場合に、1名エントリーすることが可能。ただしあまりに低い記録にならないように日本陸連が独自に開催国枠エントリーの設定タイムを設けている

「やっぱり世界陸上が東京で開催されるということでワクワク感しかないので、絶対に標準記録を切って出場するという気持ちを持って臨み、出場できた時は入賞を目標に一本でも多く走れるように頑張りたいと思います。今回はやっと1年ぶりぐらいに納得のいくレースをすることができたので、このまま調子を崩さずに、ずっと『800mは久保凜だ』と思ってもらえるような自分らしい走りをできるようにしたいなと思います」

 わずかな悔しさは残ったが、この大会で一歩前進することができた久保。記録に挑戦する姿は、7月下旬、高校最後の広島インターハイでも見られるだろう。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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