箱根駅伝 渡辺康幸があらためて感じた山上り5区・下り6区への周到準備の必要性とひと足早い第102回大会展望 (2ページ目)
【来年は4〜5強の勢力図に?】
来年は、全体的に1強ではなく4〜5強の勢力図で箱根を迎える気がします。
青山学院大は主力の4年生6人が抜けますが、2区の絶対的存在となった黒田朝日選手(3年)はよりパワーアップするでしょうし、選手層から見て強いでしょう。5区・6区のふたりが抜けるのが未知な部分ですが、誰か候補が台頭してくるチーム文化があるので、そこまでマイナスとはならない気がします。
ほかでは安定感の駒澤大、今季の経験を糧にできる國學院大、個の強さがあり爆発力を備えた中大と早稲田大がどのようなチームに成長していくのか。駒大、早大は実績を残した山区間が残ることがアドバンテージとなります。
総合2位の駒大は、藤田敦史監督が佐藤圭汰選手(3年)を3区か7区かで迷ったようですが、来年を見据えれば、結果的に3区に谷中晴選手、4区に桑田駿介選手のルーキーふたりを往路で経験させたこと、完全復活をする佐藤選手に5区の山川拓馬選手(3年)が軸となり、総合タイムも10時間44分07秒だったので、さらに期待ができます。今回は復路優勝、特に8〜10区で好走した2年生(安原海晴、村上響、小山翔也)世代もいい走りをしたように、今季指揮官として2年目の藤田監督の育成がチームに好循環となり始めている印象です。
主力では篠原倖太朗選手(4年)が抜けるだけですので、おそらく来季は「箱根総合優勝」を明確な目標として臨んでくると思います。
今季二冠で箱根は3位に終わった國學院大は優勝候補のプレッシャーもあり、平林清澄選手(4年)が一人で背負った部分も多く、最終的に山で散った形になったのですが、前田康弘監督は「山を制するものが箱根を制する」ということを、本当に身にしみて感じたのではないでしょうか。やっぱり山の2区間をしっかり育てないと勝てないと強く感じているはずなので、その部分に力を入れてくるのではないでしょうか。
得てして大エースが抜けた翌シーズンにはその危機感からみんなで頑張らなければという空気が生まれチームがより結束するケースもあります。國學院大は3年生以下の各学年もしっかり成長しているので、強いチームになってくるはずです。
個人的には私の母校、Wのチーム(早稲田)にも期待しています。もともと推薦枠で取れる選手に限りがあるので、王座を狙うサイクルにハマる回数が他の強豪に比べて少ないですが、来季はついにその時が来たと言えます。エースの山口智規選手(3年)、5区で「山の名探偵」として地位を築いた工藤慎作選手(2年)を中心に、強力な新入生も入ってきますし、私が監督の時に勝ってから14年経っているのでOBもそろそろ優勝を見たい(笑)。瀬古(利彦)さんも楽しみにしています。
中大は前回大会で総合優勝を狙いながら大会直前にチームに体調不良者が続出し、今回は出雲、全日本と全く噛み合わなかったのですが、箱根では1区の吉居駿恭選手(3年)の飛び出しもあり、噛み合ったらこんなに強いチームになるんだということを再確認させてくれました。3区区間賞の本間颯選手(2年)も含め、出走10人のうち8人が残るので、強いと思います。
創価大は主力の4年生が抜けますが、チーム力は高いですし、城西大はヴィクター・キムタイ選手、斎藤将也選手(ともに3年)という1年生から主力を務めるふたりがいるので、シード争いでは上位候補になるでしょう。
2区終了時点の19位から逆襲し20年連続でシード権を手にした東洋大は下級生がいい経験を積めましたし、終盤の粘りで10位に滑り込んだ帝京大はチーム文化として粘りを見せると思います。
今回シード落ちしたチームでシード争いに絡んできそうなチームでは、大東文化大、日体大、立教大、下級生の多い順天堂大あたりでしょうか。
青学大が2年連続で大会記録を更新し、10時間41分19秒まできましたが、10時間40分切りとなると、もう少し時間を要する気がします。ただ、その一方で11位の順大が10時間55分05秒でシード落ちしたように、各区間での記録レベルの上昇など高速化の流れは変わらず進んでいくことは間違いないのではないでしょうか。
⚫︎プロフィール
渡辺康幸(わたなべ・やすゆき)/1973年6月8日生まれ、千葉県出身。市立船橋高-早稲田大-エスビー食品。大学時代は箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝、トラックのトップレベルのランナーとして活躍。大学4年時の1995年イェーテボリ世界選手権1万m出場、実業団1年目の96年にはアトランタ五輪10000m代表に選ばれた。現役引退後、2004年に早大駅伝監督に就任すると、2010年度には史上3校目となる大学駅伝三冠を達成。15年4月からは住友電工陸上競技部監督を務める。学生駅伝のテレビ解説、箱根駅伝の中継車解説では、幅広い人脈を生かした情報力、わかりやすく的確な表現力に定評がある。
著者プロフィール
牧野 豊 (まきの・ゆたか)
1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「Jr.バスケットボール・マガジン」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。22年9月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。
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