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箱根駅伝 初の総合優勝&三冠ならず 國學院大・前田康弘監督が身を持って感じた往路優勝と山上り・5区の重要性 (2ページ目)

  • 杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki

【山区間の人材育成なくして、総合優勝はない】

 箱根駅伝の閉会式後、恩師である駒澤大の大八木弘明総監督から掛けられた言葉をしみじみと噛みしめる。往路は勝たなきゃ、ダメなんだよ――。

「どんなに進化しても、往路を取ったチームが8割、9割勝つのが箱根駅伝だぞって、端的に言ってくれたのかなと。往路といえば、山上り。5区はどのような状況でも山を上りきる強さを持った選手がいないといけないし、2区で区間賞を取れる人材、他大学に行っても1区、3区、4区を張れる選手がそろわないと、往路優勝はできません」

 言うは易し、行なうは難しである。2011年から通算14度、箱根の戦略を立ててきた指揮官は、痛いほどよくわかっている。山区間で辛酸をなめたのは、一度や二度ではない。前回大会は5区に起用した上原琉翔(現3年)が区間17位、今回も高山豪起(3年)が区間14位。いずれも起伏に強いタフなランナーを抜擢したが、思うような結果を残せなかった。

國學院がもがくなか、青学大は山を制して箱根を2連覇。今回、若林宏樹は1時間09分11秒と区間記録を更新し、往路優勝のフィニッシュテープを切っている。前田監督はこの厳しい現実から目をそむけることはない。

「5区のレベルも上がり、69分切りがどんどん出てくる時代がすぐそこまで来ています」

 山区間の人材育成なくして、総合優勝はない――。昔から山を制するものは箱根を制すと言われ続けているが、昨今はより重要性が増しているという。前田監督は自らに言い聞かせるように語気を強める。

「平地で一生懸命にトレーニングを積んでタイムを縮めても、山ですべてはじき返されるんだなと、あらためて感じました。今年は山に対して、相当深くやるぞ、という気持ちになっています」

 ただ、適性を見極めるのは一筋縄ではいかない。高校生をスカウトする段階で「山上り用」の選手を見つけることはできないという。

「正直、結果論みたいなところはあります。山のトレーニングをしてみるまではわからないので。平地の走力が、そのまま上りに生かされるわけでもないんです。根本的に選手のマインドは大事。監督からやらされて、勝てるコースではない。『5区はお前で何とかつなぎたい』と言っているようでは難しいんだと思います。選手本人に意欲、強い意志がないと。『誰が山を走るんだ?』と言っているチームは勝てない。逆に山で抜くくらいの選手をつくらないと、優勝戦線から置いていかれます」

 ずっと頭を悩ませてきたのが人選。上り下りともにトライアルに使える特殊なレースはほとんどなく、模擬トレーニングで山上りの実力を計るしかない。毎年のように志願者はいるものの、適性があるかどうかは別問題。いざ山を上ってみると、予想以上に走れず、断念する選手は珍しくないという。さらに山の練習は脚への負担が大きく、レースを控える選手のコンディションを考慮する必要もあるのだ。

「ダメージを考えれば、何度も山のトレーニングはできないんです。今年度の話をすれば、全日本大学駅伝の前はリスクがあるので、山のトレーニングはしませんでした。うちは伊勢路で初の日本一を取りたいと思っていたので、そこで主力をひとり、欠くわけにはいかなかった。今後はどこまで踏み込んでやっていくのか。考えれば、考えるほど、山は深すぎます」

 2025年度のシーズンはすでにスタートしているが、國學院は山対策の最適解を見つけたのだろうか――。青山学院大の原晋監督が大会後に話していた『メソッド対決』という言葉にヒントが一つあった。

後編につづく

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