【全日本大学駅伝】侮れない駒澤大の底力 「秘密兵器ルーキー」ら下級生の台頭で大会5連覇に挑む (2ページ目)
【出雲好走の島子、秘密兵器の谷中ら下級生の台頭】
谷中は大学デビュー戦となった出雲駅伝後の5000m記録会でトップに photo by Wada Satoshi 出雲では走った6人が大きなミスなく、堅実な走りを見せた。距離が長くなる全日本大学駅伝でも、この6人は出走する可能性が高い。
駒澤大は全日本で4連覇中だが、前回の優勝メンバーは8人中4人が卒業した。さらに、佐藤はエントリーメンバーに名前を連ねたものの、出走は微妙な状況だ。前回からはガラリとメンバーが入れ替わることになる。
新戦力の台頭が待たれるなか、藤田監督の言葉にもあったように、これまで駅伝で出番のなかった島子が5区区間2位の力走を見せたのは、大きかった。
「島子が走ったことで、(ほかの)2年生もこれから出てくると思います」
藤田監督がこう話すように、島子の活躍が呼び水となり、学年全体が活性化しそうだ。実際、全日本のエントリーメンバーには、島子を含めて2年生が4人も名前を連ねている。
さらには、春先から活躍を続ける桑田と共に、楽しみなルーキーも出てきた。
福島・帝京安積高出身の谷中晴(たになか・はる)。ヒザのケガ明けのためシーズン前半戦はレースで出番がなかった、いわば"秘密兵器"のような存在だ。この夏を乗りきり、出雲のエントリーメンバーに入るまで成長を遂げた。
出雲駅伝への出場を見送られたものの、谷中は駅伝後の"もうひとつの出雲駅伝"こと出雲市陸協記録会の5000mで、圧巻のパフォーマンスを見せた。
「全日本のメンバー選考がかかっていて、監督からは"勝ちきるように"と言われていたので、そこをしっかり意識していました」
谷中にとってはこのレースが大学初戦だったにもかかわらず、青学大の白石光星(4年)や國學院大の嘉数純平(3年)といったライバル校の主力選手に対して一歩も引くことはなかった。それどころか、残り2周を切ってロングスパートを仕掛けると、指揮官の期待どおり、見事に勝ちきってみせた。そして、タイムも自己記録を10秒以上更新し、自身初の13分台となる13分49秒71で走った。
「トップをとれたので、合格点をあげられると思います。ちょうど1年ぶりのトラックレースで自己ベストを出せたのは大きな収穫。夏合宿をしっかりできたのが自信につながった。今回の出雲駅伝はギリギリのところで外れてしまって悔しい思いをしたので、全日本はしっかり走りたい」
谷中も自身の走りに及第点を与え、全日本出場に意欲を示していた。
「負けてもただでは起きないのが駒澤なので、『チームが負けたなかで、お前たちがどういうレースをするかが大事だ』っていう話をして送り出しました。谷中は非常に強かった。次の全日本に向けて"駒澤は絶対に負けないんだ"っていうのをアピールできました。間違いなく全日本は(谷中を)使います」
藤田監督も、谷中の走りに太鼓判を押す。
藤田監督に「過去の駒澤大の選手にたとえると、谷中は誰に似ているか?」と質問を投げると、少し悩んだ末に「私に近いですね」と答えてくれた。現役時代の藤田監督といえば、トラックの持ちタイム以上に、ロードでは滅法強かった。ということは、谷中もまたロードの長い距離でこそ真価を見せるということなのだろう。
「高校の時はずっと"一匹狼"でやっていて、学法石川の増子君(*)っていう強い選手に勝負を挑んで勝ちきった男なんで、気持ちは強いですね。ひとりで走れるし、ロードが強い。ゆくゆくは桑田と谷中でダブルエースになる可能性は十分にあります」
*増子陽太。3000mの前中学記録保持者で、5000mの高2最高、高1歴代2位の記録を持つ
藤田監督が高い期待を寄せる谷中が、いよいよ伊勢路でベールを脱ぐ。
"もうひとつの出雲駅伝"では、4年生の金谷紘大も13分57秒12で5着と好走。各校の2番手の選手では最上位だった。金谷もまた夏合宿明けから好記録を連発しており、アピールを続けている。
出雲に続き、佐藤が不在となると、もちろん大きな痛手だ。それでも、伊勢路で戦える陣容は整いつつある。そして、このピンチを再び乗り越えた時、駒澤大はさらなる成長を遂げているだろう。史上初の全日本5連覇を果たした先に、箱根駅伝の優勝も見えてくる――。
著者プロフィール
和田悟志 (わだ・さとし)
1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。
2 / 2