28歳でついにつかんだパリ五輪代表 女子100mハードル・福部真子が陸上日本選手権で見せた成長の足跡 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 岸本 勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

【調子が上がらなかったシーズン序盤】

福部は予選から好記録を出し、準決勝で参加標準を突破した福部は予選から好記録を出し、準決勝で参加標準を突破したこの記事に関連する写真を見る

 世界大会の参加標準記録突破という事実が軽視されているのではないか、とまで思った昨年の屈辱。それを晴らすのはパリ五輪出場しかないと誓って臨んだ今シーズン。世界ランキングのポイントを稼ぐことを意識して、2月にオーストラリアの大会にも出場した。だが2月上旬に予定していた全日本室内選手権前に腰を痛めた影響もあり、ポイントを稼げなかった。

 さらに地元・広島での織田記念(4月29日)は走りも重く、決勝は13秒09で田中に敗れ、2位という結果。「1月から4月まで体調管理がうまくいかず、練習量を半分にしなければいけない状態でした。3週間前からようやく走れるようになったので、練習ができなかった期間を加味すれば上出来だったと思います」と話した。

 そんな乗りきれない状態はその後も続き、5月12日の木南記念では12秒92を出したが2位、翌週のゴールデングランプリは13秒00で3位。織田記念優勝以降、着実にポイントを積み重ねた田中に差を広げられ、福部は思うようにポイントを上積みすることができずにいた。

 だが日本選手権に向け、前の試合から空いた3週間で調子を上げることができた。

「中学生のジュニアハードルの高さで跳躍の高さを出していくという練習をやり始めてから、『この感覚だったな』というのを思い出せたので、予選と準決勝の(12秒)8台、7台の記録が出たのかなと思います。この冬のスピード練習で、スプリンターのように腰を少し低くして足を捌いていく動きが身につきました。ただ、それだとトップスピードになった時に腰が一段下がってしまうので、ハードルと接触があったけど、高いスピードでいい跳躍ができるようになりました。それをさらに磨きをかけるには、体重を減らす必要があると考え、肉は食べないで魚だけにしたり、1日2食で徹底的に減量に努めました。

 体重は日本記録を出した時より2㎏重いけど、その時より体脂肪が1%減の7%にできたので、筋力のパワーが上がって12秒73は出るのかなと思えました」

 準決勝の直後には同走の選手からも祝福された。

「去年はみんなに慰めてもらって、今年は喜んでもらえたので幸せな選手だなと感じました」と笑顔を見せ、さらに続けた。

「あの瞬間(昨年の決勝直後)を一回も忘れたことはありません。あれがあったから踏ん張れたところはあったし、メンタルの成長にもつながった。自分にとってすごく必要な経験だったなと今は感じています」

 本当の意味で前年の屈辱を晴らすには、決勝で勝ってパリ五輪内定を決め、「あれがあってよかった」と心から言えるようにしなければならないからだ。

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