ドルーリー朱瑛里と久保凜 初出場の日本選手権で輝いたふたりの高校2年生ランナーが心に固めた今後への決意 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 岸本 勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

【久保は800m優勝で自信。「あわよくば」の貪欲さも】

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 800mに出場した久保は今大会の走りで、大きな自信と次への意欲を掻き立てた。

 6月29日の予選。「初めての日本選手権という舞台でしたが、自分は優勝を狙っているので、まずは予選をしっかりと1番でゴールすること目的に走った」と言うように、田中や卜部と同組になったが、プランどおりに最初から後続を引き離して前に出ると、400mを1分01秒で通過。その後、田中や卜部に追いつかれたが、ラスト100mからのスパートで再び突き放し、2分03秒60で余裕の1位通過。

「田中さんに迫られたのは場内放送でわかっていましたが、焦ることなく自分のリズムを保てました。全力で走ることを意識して、実際リズムよく走れていたので、もう少し余裕はあるかなという感じです」と気持ちの余裕も見せていた。

 今年になって注目度も高まった。もちろん緊張はするが、それをあまり考えず気にしないようにしているというメンタルの強さの片鱗を見せたのは、翌30日の決勝だった。

 レースでは、シニアの選手たちも意地を見せる走りをした。2分02秒57の日本高校記録を持つ塩見綾乃(岩谷産業)と自己ベスト2分02秒71の川田朱夏(ニコニコのり)が久保の前に出る展開に。

「予選のように自分が前に出ることも考えていましたけど、塩見さんが先に行ったのでそこは落ち着いて、レースプランを変えて走ることができました」

 久保は、前方が空いている外側にポジションを取り、3番手で落ち着いて追走した。そして400mを通過すると外側から一気に先頭の塩見に競りかけ、そのまま併走でバックストレートに。550m付近ではそこに田中が外側から競りかけてきたため、久保は一時3番手になったが、「落ち着いてラストの250mぐらいから仕掛けると考えて走っていたので、田中選手が前に出た時は『絶対に、ここで抜かれてはいけない』と思った」と、ふたりの間に割り込むように、前に抜け出す気の強さを見せた。

 その後は伸びのあるフォームで先頭の位置をキープ。最後の直線(ホームストレート)に入ってからは直近の数レースでも威力を発揮してきたラストスパートで後続との差を開き、2分03秒13でフィニッシュ。2位に上がった卜部に1秒13差をつける見事な勝ちっぷりだった。

「レース前は少し緊張もあったけど、この大きな舞台を楽しもうと、監督とも話をしていたので、楽しんで勝ちきることができてよかったと思います。大きな大会を勝ちきることができてうれしい気持ちのほうが大きいですけど、タイムを狙っていた部分もあったので、その部分は少し悔しかったかな......。高校記録更新とあわよくばパリ五輪の参加標準記録(1分59秒30)も考えていたので、その部分は悔しいです」

 女子800mは、世界選手権には2022年大会で田中が日本人女子選手として史上3人目の出場。オリンピックにおける出場も、戦前の1928年アントワープ大会で銀メダルを獲得した人見絹枝、開催国枠出場だった1964年東京大会・木崎正子、2004年アテネ大会に現在も日本記録保持者(2分00秒45)の杉森美保と、世界に遠い種目だ。だが久保は、800mのみならず1500m、冬期には駅伝と幅広い種目に挑むことでレベルアップを図るなか、「800mという種目が好きだから、2分を切る選手になって世界で戦いたい」と言いきる。

「今年中には2分2秒(57)の高校記録を更新して、来年の試合では1分台という部分を目指して、というふうに頭に入っています。前半の400mからしっかりスピード上げて1分を切って入らないと(最終タイムが)1分台というのも無理なので、レース序盤からスピード(を上げ)、それをラストまで保てるように練習を積む必要があると思います。

(単種目の)400mも今は自己ベストが55秒0だけど、最初の入りを意識していかなければいけないので、もう少しタイムを上げて800mにつなげていきたいなと思っています」

 同じ日程で行なわれた男子800mでは、高校3年の落合晃(滋賀学園)が予選で日本記録にあと0秒07に迫る1分45秒82のU20日本記録を更新。決勝では、目標に掲げていたパリ五輪参加標準記録(1分44秒70)突破はならず悔しさを露わにしていたが、積極的なレースを展開し2位に1秒10差をつける圧勝をしていた。今季、同じ近畿、同じ種目でともに記録を伸ばし続ける落合の存在も大きな刺激になっているという久保は、今後に向けての意気込みを力強い言葉で口にする。

「来年の東京世界選手権、4年後ロス五輪もありますけど、今日からその大会に向けて『絶対に出場する』という気持ちを持って、日々練習に取り組もうと考えています」

「日本人には無理だろうという思いを払拭したい」、そう言って田中希実が切り開き始めた中距離での戦い。

 今回の日本選手権で高校2年のふたりは、その背中を追いかけ、追い詰めていきたいという気持ちを強くアピールした。

プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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