久保建英のいとこ・久保凜は日本陸上界期待の16歳 五輪コーチの山下佐知子が長所を解説

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

高2の久保凛は、今春の日本GPシリーズで存在感を見せた Photo by 中村博之高2の久保凛は、今春の日本GPシリーズで存在感を見せた Photo by 中村博之

 2024年、高校2年生のふたりの女子ランナーが、その将来性も含めて注目を集めている。中学3年時の全国都道府県対抗女子駅伝の快走でその名を轟かせ、高校入学後は1500mを中心に順調に競技生活を続けているドルーリー朱瑛里(津山高2年・岡山)、今季年齢制限のない日本GPシリーズの800mで3連勝を収めた久保凜(東大阪大学敬愛高2年・大阪)だ。

 6月27日から新潟で行なわれる日本選手権には、ドルーリーが1500m、久保は800mにエントリーしているが、五輪ランナーであり、現在は五輪コーチの山下佐知子氏(第一生命グループ女子陸上競技部エグゼクティブアドバイザー兼特任コーチ)に、俯瞰した立場からふたりの長所、そして将来への期待について聞いた。

 後編では久保凛についてうかがった。

【自然と足が振り出される独特なフォーム】

 昨年の全国高校総体(インターハイ)800mを1年生ながら制したことで、陸上界では名が知れるようになっていた久保凛だが、今季の活躍はその注目度をさらに上げるものとなっている。

 今年4月の金栗記念800mではセカンドベストの2分05秒35で田中希実(New Balance)を0秒73抑えて優勝。その後も静岡国際、木南記念で選手たちを抑え、日本GPシリーズ3連勝を果たした。

「久保さんの名前は、私ももちろん知っていました。『サッカーの久保健英さん(日本代表、レアル・ソシエダ)の従姉妹らしいよ』という話は聞いていたし、2月のアディダスの"TOKYO CITY RUN"(女子招待5km)にはうち(第一生命)の選手も出ていましたけど、高校生の彼女にやられたので」と苦笑する山下コーチだが、今回改めて久保の走りを映像で見て「股関節の使い方が天才的」と驚く。

「ドルーリーさんは腕をたたんで走るのに対して、久保さんは"やじろべえ"のように脇を開いて腕を下ろした状態で走っています。独特なスタイルと言えます。一般的に、多くの選手はトラックを回る時には外側になる右手を(左手よりも)少し開いて大きく振るのですが、彼女の場合はトラックの内側になる左側のほうが、脇が開いている。トラック選手でこういう腕の開き方は珍しいと思います。

 腕を振り過ぎると股関節の動きが阻害される場合がありますが、左右ともに少し脇を開いて腕を下げている上体の動きは、股関節が一番動きやすい姿勢とも言えます。ドルーリーさんとは違い、『教科書のような走り』ではなく、独特な走りですが、おそらくドルーリーさんと同じように、身体のなかできちんと肩甲骨が動いて、体幹、骨盤にも力が伝えられていると思います。

 腕を下ろしているので、しっかり腕を振っている、という感じではないのに、あれだけ股関節がしなやかに振り出されるというのは、体幹の強さ、筋肉の強さが備わっているのではないかと思います」

 山下コーチはまた、「走ろうという意識を持って足を前に運んでいるのではなく、力みなく足が振り出されてくるような、という表現になるのでは」と久保の走りを形容する。

「何にも阻害されず、足が(勝手に)振り出されてくるっていうような表現ですね。太ももを挙げよう、足を前さばきにするために(重心を前方に)しっかり乗り込むとか、そういう作り込まれた意図を感じない走りです。

 動き自体は少し違うでしょうが、100mの伊東浩司さん(元日本記録保持者、現・甲南大陸上競技部監督)の走りは、股関節を伸展させる独自のメカニズムと言われていましたし、末續慎吾さん(200m日本記録保持者)はナンバ走りと言っていたように、彼女もそういう、独自のランニングのメカニズムがきちっと機能しているからこそ、力みなくいけている感じがします」

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著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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