久保建英のいとこ・久保凜は日本陸上界期待の16歳 五輪コーチの山下佐知子が長所を解説 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【大切なのは中長期の目標設定】

 今季の女子800mの状況を見れば、久保が日本選手権を制する可能性もある。だが、大切なのは中長期の目標設定だろう。

「国内で優勝したり、仮に日本記録を更新しても、『世界との差はこうだから、ここから先にうまく伸びてほしい』と思うような周囲の目線や評価があるかどうかだと思います。それはドルーリーさんに対しても同じだと思います」と山下コーチは言う。

 パリ五輪出場資格状況を示す世界ランキング(1国上位3名対象)を見れば、48人がエントリー目安の五輪の800mでは現在、世界ランキング32位の選手までが1分59秒30の五輪参加標準記録を突破済み。参加標準記録を突破しないで48番目までに入るには2分0秒台を継続して出すことが必要となってくる状況。また、45人がエントリー目安の五輪の1500mでは現在、五輪参加標準記録の4分02秒50を29位の選手までが突破済みで、同記録を突破せずに45番目までに入るには4分5~6秒のレースを継続していく必要がある(*)

*五輪、世界陸上では大会ごとに設けられている参加標準記録を本大会までに突破すれば、出場資格獲得。ただし、参加標準記録を未突破でも、複数の大会の記録、順位を独自に算出したポイントで順位づけされる世界ランキングで出場枠内に入れば、状況に応じて出場資格を得ることができる。参加標準記録突破が実力的に厳しい選手は、世界陸連が高くランク付けした大会で高順位、好記録を出せば、高ポイントが得られるシステムになっている。

 そうした自分が置かれている状況を捉える意味では、ドルーリーは家庭環境からもグローバルな視点を持っているだろうし、久保もスペインのプロリーグで戦う存在が身近にいる点で、冷静な判断できる環境に身を置いているともいえる。

「周りがどう評価しようがそれを気にしない、とは言うものの、難しい部分はやはりあります。パリ五輪にマラソンで出るうちの鈴木優花を見ていても、それは感じます。

 ドルーリーさんと久保さんに関しては、これから世界に出ていく選手として温かい目で注目して、その成長をみんなで楽しむというようなスタンスになったらいいですね」

 そんな環境を作っていくことが、彼女たちの可能性を大きくするカギにもなるだろう。

【解説者Profile】山下佐知子(やました・さちこ)/鳥取県出身。鳥取大学卒業後、教職の道に進むが、陸上競技への思いを募らせ、京セラに入社し実業団選手に。マラソンランナーとして活躍を見せ、1991年東京世界選手権で銀メダルを獲得、翌92年バルセロナ五輪では4位入賞を果たした。現役引退後、指導者となり、第一生命監督時代には2009年ベルリン世界陸上選手権銀メダル、12年ロンドン五輪代表の尾崎好美、2016年リオデジャネイロ五輪マラソン代表の田中智美、同5000m代表の上原美幸、そしてパリ五輪代表の鈴木優花ら多くの長距離ランナーを育て上げている。現在は、第一生命グループ女子陸上競技部エグゼクティブアドバイザー兼特任コーチを務めている。

プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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