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箱根駅伝の沿道で徳光和夫は選手たちに声かけ&生実況「サザンオールスターズのあの音楽が聴こえるか」「烏帽子岩がほほ笑んでいるぞ」 (2ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi
  • 柳岡創平●撮影 photo by Yanaoka Sohei

【プライベート観戦で本格生実況】

 沿道の人は、やっぱりテレビ中継が始まってから増えましたね。茅ヶ崎市の人口も、私が住み始めた時は11万人ぐらいだったのが、今や26万人にまで増えています。

 駅からまっすぐ続く「(加山)雄三通り」と、僕が見にいく「一中通り」という道があるんですけど、箱根駅伝の日は朝8時ぐらいから行列ができます。ゲルマン民族の大移動みたいに、海へ海へと続きます。往路も復路も通過するのは10時半から11時ぐらいなんですけどね。早く行かないといい場所を確保できません。僕もだいたい8時半には家を出て、あとはラジオを聞きながら選手を待っています。

 一応、しゃべる仕事をしているので、沿道で応援する際には、選手の名前、出身高校、ちょっとしたコメントなどを、声に出しています。目の前を通る13秒から15秒ぐらいしかないんですけどね。

 事前に新聞を見て、名前を書き出しておくのですが、8区は当日変更が多いんですよ。10人ぐらい入れ替わることもあります。

「今、地元の東海大が6位で通過します。◯◯選手は◯◯高校の出身です」「ぶどうの産地、山梨県から来た◯◯。さあ頑張れ、ここから湘南の海だ」「サザンオールスターズのあの音楽が聴こえるか」「烏帽子岩がほほ笑んでいるぞ」

 こういった声をかけるわけです。

この記事に関連する写真を見る 僕は子どもの頃に福島県の三春町というところに疎開していたことがあって、その三春にある田村高校の卒業生が、これまで何人も箱根駅伝を走っているんですよ。目の前を走っている選手が、まさか田村高出身とは信じられなかったです。

「桜と桃と梅、3つの春で三春だ、さあ、田村高校、行けー!」と、こんな声をかけたことがありました。

 でも、選手に聞きますと、誰ひとり、僕の声を聞いた記憶がないそうです。選手の耳には届いていないんでしょうね。

 テレビ中継がなかった時代に1回だけ、こんなことがありました。順天堂大の澤木啓祐監督(当時)が、ジープに乗って、メガホンで選手に声援を送っていたところに、「今年こそ順天堂の春だ」と声をかけたんです。それが澤木さんに聞こえたのか、もしくは、僕の姿が目に入ったのかもしれません。

「1、2、1、2、あっ徳光さん、1、2、1、2......」と、選手への掛け声のなかに、僕の名前を口にしました。

 あれは僕にとっては宝物。耳の宝です。しかも、気づいてくれたのが澤木さんですから、うれしかったですね。澤木さんはきっと覚えていないと思いますが......。

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