田中佑美「社会人として丸まっちゃダメだなと思う」アジア大会100mハードルで銅メダル獲得も中国選手から感じたこと (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO SPORT

【「日本代表」の重みと捉え方】

 今年の4月に、女子ハードラー日本人4人目の12秒台突入者となった田中は、6月の日本選手権まで4試合連続で12秒台をマークし、自己記録を12秒89まで伸ばした。

 だが、初出場だった世界選手権では予選5組7位で敗退。「アップではいい動きができていたので12秒9は出るから、自分との戦いだと思っていた。でも後半にリズムアップして追いつけるタイミングで離されて。思いどおりにはまったく走らせてもらえなかった」と世界の舞台で打ちのめされた。

 このアジア大会を走ったことで、世界選手権はものすごく緊張していたということを客観的に振り返ることができたという。

「ジュニアの大会からいろいろ出させていただいて、今年もヨーロッパに行き、国際大会は慣れていたけど、日本代表(を背負うということに)は慣れていなかったんですよね」

 アジア大会の前は少し怖じ気づいていたという。注目されることが多くなるなかで、守りに入るようになり、試合前のワクワク感が減っていると感じていた。しかし、今大会の「決勝のフライングの前まではワクワクしていた」と振り返り、「そういう気持ちを絶対になくさないように、大事にしたい」と話した。

 記録に関しては、自身のアベレージが上がっているなかで、まず目指さなければいけないのが、今大会中国勢が出していた12秒7台。そのために重要なのは、筋力とスプリント力のベースだ。

「ただ、単純に体を大きくすればいいというわけではないので、そこは自分の特性や体質と向き合って強くなっていきたい」

 だが、この大会で中国勢のふたりから、もうひとつ感じるものがあった。

「声援が大きい分、彼女たちにとってプレッシャーになっていたと思う。ゴールしたあとは泣いていたし、それだけのプレッシャーを跳ね返して走れたのは彼女たちの強さだと思っています。

 私はまだ日本代表に慣れていないと言ったけど、やっぱり日本代表を勝手に背負っていたというか、国内の争いも熾烈だから『出るだけじゃなくて頑張らないと』という思いに少し負けてしまったところもあるかなと、今は思います。彼女たちのように、それを跳ね返す力を身につけたいと思うし、それができれば勝負強さも出てくると思います」

 ジュニアの頃は怖いもの知らずで「自分はどこまでもいける」と勝手に思い込む、根拠のない自信があった。そのことを今になって、改めて思い出していると笑う。

「やっぱりそういう自信ってアスリートとして大事な部分だから、社会人として丸まっちゃダメだなと思う。そういう尖ったアスリート性をまたキリキリと削っていきたいと思います」

 おっとりとした口調でこう話す田中は、銅メダルを手にした感想を聞かれると、「物理的に重かったですね。でも、3位になったらなったで、『どうせなら優勝したかった』という欲が出てくるのが、本当に人間ですね」とアスリートらしい一面を見せた。

 決勝の舞台でハプニングに巻き込まれながらも、冷静に走りきった彼女にとって、「日本代表」を背負って走るということや、この銅メダルは、次への欲を生み出すメダルになった。

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