泉谷駿介、110m H日本記録の裏にあった技術の進化 世界と戦える12秒台へ向け「小さい体でよかった」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 岸本勉●撮影 photo by Kishimoto Tsutomu

 13秒21がシーズンベストだった昨年は、世界選手権に出場したが準決勝は全体14位の13秒42で敗退。その直後には他の選手の体の大きさに圧倒され、ハードル以外の種目をやったほうがいいかもしれないと弱気な言葉も口にした。だが帰国後にもう一度自分の走りを見直して改善点を研究した。ハードルを跳ぶ時に踏み切りが近くなって詰まってしまう傾向があるため、ハードル間を細かく刻む走りにしてスピードアップできるような取り組みを始めた。山崎監督はそれをこう説明する。

「海外の選手のレースパターンは、後半をいかに落とさないように刻んでいくかという形が多いんです。13秒0台を目指しているだけなら前半から飛び出して行くスタイルでも可能ですが、それでは海外の流れについていけないしそれ以上を狙えない。それで後半の走りを重視した取り組みを始め、ハードル間の刻みのやり方やスプリント、ドリルなどに取り組んだが、それでかなりいい状態ができたと思う。後半は世界のメダルレベルの走りだったと思うし、追い風の好条件なら12秒台が出るかと思える走りでした」

 泉谷も「練習で刻む練習をけっこうやっているので、それが生きたかなと思います。3台目のハードル以降からビルドアップする感覚で、そういう所でこれまではうまく足をさばけず踏み切りがハードルに近かったりしたが、今は遠くから踏み切って安定させるような意識なので多少前半が遅くても仕方ないかなと思います」とレースを振り返る。

 ゴールデングランプリでも泉谷は「前半のもたつき」を口にしていたが、そこも今は改良中だと山崎監督は言う。

「1台目のハードルまでは7歩で行くから、ボーンボーンと大きく、強く走らなくてはいけない。それはインターバルを速く刻む動きとは正反対だから、それをつなげるのは難しいんです。ただ、1台目に向かう時に大きく強く行って(超える手前)ラスト3歩を刻む走りにすれば、1台目を超えてからも速く刻める。今回は1台目のハードルに大きな動きで入ってしまったが、ゴールデングランプリの時は今回より比較的いい感じで入ったので、それをミックスできれば12秒台にも入れると思います」

 今回は向かい風だったこともあり、後半の刻みがうまくいった面もある。泉谷は「追い風になってもあの感じならさばけると思うので自信につながりました。体が小さい分(175cm)、素早い動きができるので、中盤以降の踏み切りも体が大きい人以上に詰まらないと思います。今は小さくてよかったなと思うし、自分の持ち味を生かして素早い動きで行けるならいいかなと思っています」と前向きな言葉を口にする。

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