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初マラソンで厳しい洗礼も前年120位から3位に。「外さない男」細谷恭平が転機を語る (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

キロ3分ペースでは話にならない

 チャンスの機会は、9カ月後にやってきた。MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権獲得のために、年2回のマラソン挑戦がチームに認められ、昨年12月の福岡国際マラソンにエントリーをした。

「監督と話をするなかで、ただMGC(の出場権)を獲るだけではなく、今後、海外勢と戦うことを考えていくとキロ3分ペースで勝負していても話にならない。2分58秒でトライしてみようということになったんです。すごくいい状態でスタートラインに立てましたし、(最終的に)タイムよりも順位、日本人トップを獲りたいという目標に揺るぎはなかったですね。実際、目標を達成して、日本人トップ(2時間8分16秒)を獲れましたけど、日本陸連が定めた世界選手権の派遣設定記録(2時間7分53秒)をきれなかったのが悔しかった。2分58秒ペースで押せたらそのタイムは余裕できれたと思うので......」

 だが、レースで細谷は全力を出しきった。ハイペースで入ったため、ゴールした直後、脱水症状になって意識が朦朧とし、医務室に運ばれて点滴を打った。自分の持ち味でもある「ネジを外せる」という走りを見せてくれたのだ。その意味では、来年のMGCにも期待が膨らむが、「MGCは別物」という意識が強い。

「かなり大変なレースになると思います。前回は、OBの園田隼選手が出ていたので見ていたのですが、セオリーどおりにいかない難しいレースでした。ペースメーカー不在で先が読めないので、相当な自信を持って臨まないと厳しいと思っています。誰がライバルとかはないですが、僕が怖いのは、若い選手ですね。これからどんどん伸びてくるでしょうし、固定概念がない分、何をするかわからない。元気な若い子たちは勢いもあるので、怖いですよ」

 細谷は、今年で27歳になる。一番動ける年齢のような気がするのだが、チームには18歳の高卒の選手が入ってきており、ジェネレーションギャップを感じる時もある。

「チームでは主将ですし、年齢的にも上のほうですからね。監督からは、ネタで『年取ったんだから』ってよく言われますけど、27歳と18歳はやっぱりだいぶ違います。彼らには、何をするのかわからない若さがありますけど、自分には安定感がありますからね。パフォーマンスを高いレベルで発揮できるのが強みなので、これからも練習を継続して、しっかり土台を作っていきたい。そうすれば若い選手に負けることもないでしょうし、大きく外すこともないと思うんで」

 細谷は、まだ日の丸を背負った経験がない。アジア大会で男子マラソンの代表になっていたが開催地の中国上海がコロナ禍でロックダウンされ、中止になった。

「入社して、日の丸を背負いたい気持ちがありましたが、絶対になってやるというよりもなりたいなぐらいのゆるい感じだったんです。でも、マラソンでいいレースができるようになって、ようやく上をちゃんと見られるようになってきたので、パリ五輪に出て、日の丸を背負って走りたいですね。ただ、出るだけでは絶対に終わりたくない。(気温など)コンディションがよい状態だと今年の東京マラソンで優勝したキプチョゲのようにレベルの違いを見せつけられますけど、夏の五輪は何が起こるかわからないですからね。日本人にとってはチャンスだと思うので貪欲に結果を求めていきたいです」

 マラソンで結果を出すことで知名度が上がり、細谷はアシックスなどスポーツブランドの顔になりつつある。MGCを勝ち抜き、パリ五輪出場を決めれば、さらに注目されるだろう。ただ、競技はパリ五輪で終わるわけではなく、その先も続いていく。

 細谷が目指すランナーとは、一体どういう選手なのか。

「ベタですけど、速いだけじゃなく、強いランナーになりたいですね。レースで勝つのはもちろんですが、勇気をもらえたとか、元気になったとか、みんなにありがとうって感謝されるような走りを見せたいですし、もっと頑張ってねと、みんなに支持されるランナーになりたいと思っています」

 細谷は外さない選手、その域に必ず達するだろう。

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