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初マラソン日本記録達成の裏側。星岳はライバルの余裕の笑みに「マジか」と驚くも勝負所を見極めていた (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 産経新聞社

走行中のふたりの笑みに「マジか」

 そうして迎えたのが2月27日の大阪マラソン・びわ毎日マラソン統合大会だった。仙台大学附属明成高の先輩である村山謙太(旭化成)をはじめ、設楽悠太(Honda)ら力のある選手がMGCの出場権を狙って参戦していたが、星はレースにおいて意識したのはひとつだけだった。

「タイムは、2時間9分をきって、MGCに引っかかるところで走れればいいなって思っていました。あとは、余計なことをせず、給水を取れなくても焦らず、とにかく冷静に走ることだけを意識していました」

 レースでは、30キロ過ぎまで集団のなかに隠れるようにして走った。それ以降、さすがにキツさが出てきたが、耐えて走っていると徐々に周囲が落ちていった。35キロ地点になると山下一貴(三菱重工)と浦野雄平(富士通)、星の3人が残っていた。

「ここからが勝負だなと思いました。ただ、本当の勝負どころはラスト1、2キロだなとも考え、そこに備えないといけないと思っていました」

 3人での走りが続いたが、36キロ地点で山下と浦野が笑顔を見せて、何やら話をしていた。ふたりの背後にいた星は、余裕の笑みに「マジか」と思ったという。

「ふたりが笑った時、彼らのほうが余裕度は上かなと思いましたし、これだとキツいなと思ったのですが、ペースが上がらなかったんです。あれ、と思ったんですが、もしかしてここで自分が動けば行けるのかなって思いました」

 37キロ地点、星は一度、時計を見て、ギアを一段階上げた。

「時計を見ると、まだ6分台を狙えそうだったので、その欲もあって、そのタイミングで前に出ました。ただ、正直、仕掛けた感は全然なくて(苦笑)。結果的に37キロが勝負ところだったのかなと思いますが、前に抜けても自信がなかったので、うしろの山下さんの姿を確認しながら走っていました。本当に最後まで油断できなかったですね。ラスト勝負になった時、マラソンではどこでスパートが出るのか見えない部分があったので、かなり不安で......。勝てたなと思ったのはゴールが見えてからです」

 タイムは、2時間7分31秒で初マラソンのタイムとしては日本最速記録になった。レース前は熱視線を浴びるほどではなかったが、優勝して一躍注目を集める存在になった。

「レースは予想以上の出来でした。タイムを意識しましたけど、結果的に勝つことでついてきたので、そこは自信になりましたし、これまでの取り組みにも自信を持てました」

 レースでは、非常に冷静な走りが目についた。

「それは箱根で得た経験を活かすことができたのもありますが、もともと性格的に人に惑わされないし、周囲を気にしないタイプということがあるのかもしれません(笑)。マラソンは、もちろん相手がいるんですけど、他の人を意識するよりも自分のベストを尽くすことを優先して、自分の走りに集中しています」

 星の走りの強さは、人に左右されない図太いメンタルにも支えられているようだ。

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