五輪でメダルを目指す神野大地の夏。新フォームで70km走に挑む (5ページ目)
翌日、網走は雲ひとつない快晴だった。7月のホクレンの大会時は日中35度まで気温が上がり、選手にとっては地獄のようなレースだった。今回はそこまでいかずとも、やはり暑い中で70kmを走ることになりそうだ。
コースは網走市内の宿泊ホテルの前から網走湖脇のサイクリングロード、能取(のとろ)湖の手前から美岬(みさき)ラインを走り、能取岬を越えてホテル前に戻ってくる1周約35.5kmで、これを2周する。難所は能取岬を越えた後、ラスト10kmのアップ&ダウンが続くところだ。特に2周目は疲労もあり、かなりの粘りが必要になってくるだろう。
「じゃ、行きます」
神野が静かに言い、午前9時、ホテル前からスタートした。迎忠一コーチ、井上洋平コーチと中野がバンで追いかけていく。日差しが強いが網走湖畔のサイクリングコースは生い茂った草木の中を走るので涼しく、快適だ。ただ、車が並走できないので給水ができない。そして、この時に給水できていなかったことが、その後、神野を苦しめることになる。
「最初10kmまで給水がなくて、僕もいらないかなぁって思っていたんです。でも、5kmでほしかったですね。10km以降は5kmごとに給水したんですが、なかなか吸収されなくて......。40kmぐらいでようやく体に吸収されてきた。そこからの15kmは体が軽くなり、足も前に出ていく感じで、メッチャよかったです」
美岬ラインは右手には山の緑の斜面、左には林を挟んで能取湖で、走るには気持ちのいいロードだ。気温が上がり、神野はシャツを脱いで上半身裸で走る。灰色のロードに引き締まった白い体が映える。
1周目は、余裕の表情だった。
2周目に入り、前半は快調なペースで飛ばす。50km地点、中野が神野のフォームをチェックする。
「いいね。今のところ崩れていない」
中野はニヤリと笑った。しかし、最後の10kmにくると、神野の表情が歪みだした。
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