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五輪6大会連続出場のノルディック複合・渡部暁斗が奇跡を信じられる理由「満開の桜の咲かせて終わりたい」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【五輪に対する考えの変化】

 これだけ長く競技を続けられたのは奇跡ではなく、多くの努力があった。

「結果だけにとらわれることなく、競技やアスリートの本質を追求することはできたかなと思います。結果が出たからすごいのではなく、そこにある本質を追求し、自分がどんな存在でありたいか、憧れられるアスリートとはどんな存在なのか。その上での結果や勝ち負けについてこだわって、追求する姿勢を崩さずに競技生活を続けてこられたと思っています」

 そんな探求を続けるなかで、8勝を含む表彰台14回を記録した2017-2018年シーズンのW杯は、「強さの証」とずっと目標にしてきた総合優勝も手にした。

「アスリートとして競技を追求するだけではなく、より深掘りしていくという探究心を持ち続けられたことが、(W杯総合優勝に)たどり着けた要因のひとつだと思います」

「W杯総合優勝がもっとも尊い」と信じていた渡部は、総合優勝を経て、多くの経験を積み、最後の五輪への意識が変化をしているという。

「本当に独りよがりの競技生活だったと思う。W杯総合優勝を獲得するまでは、実力の証明がすべてだと思っていました。それが2017-2018年の総合優勝で証明できたのは間違いないです。ただ、その時は登山でたとえれば、山頂にはたどり着いたけど誰もいないみたいな感覚があって、『スポーツのよさはそういうところにはないのかな』と思いました。

 やっぱりたくさんの人に見て、応援してもらえること。自分の成し遂げた瞬間やそれに至る過程も含めて、喜びや興奮を共有できるのがスポーツのよさや存在意義ではないかなと思ったんです。そういうことを総合優勝後、さらにコロナ禍を経て考えるようになりました。

 ノルディック複合のようなマイナースポーツは五輪が一番注目される舞台だし、そこで最高のパフォーマンスをして、その瞬間を応援してくれる人たちと共有することができる五輪という舞台は本当に特別なもの。そこに対して本気になってもいいのではないかと、今は思っています」

 そうして幕を開けた五輪シーズン。11月28日の開幕戦ラージヒル個人は、ジャンプが万全ではなく14位だったが、距離で日本人最上位の13位に上げた。そのあとは、その順位を上回れていないが、「奇跡を起こす」という意欲は変わらない。

「五輪の会場になるバルディフィエメ(イタリア)は、僕がW杯初優勝を決めた思い出の場所でもある。そんな会場が自分の最後のシーズンの大舞台ということに、とても不思議な巡り合わせを感じています。小さなことが積み重なると奇跡が起きるのではないかなと思い描いています」

 渡部の初五輪もイタリアのトリノ。そんな不思議な巡り合わせも追い風に変えようとしている。

Profile
渡部暁斗(わたべ・あきと)
1988年5月26日生まれ。長野県出身。2006年のトリノ五輪に初出場を果たして以降、五輪は5大会連続出場。2014年ソチ五輪と2018年平昌五輪のノーマルヒル個人で銀メダルを獲得し、2022年北京五輪ではラージヒル個人と団体で銅メダルを獲得。W杯でも2017-2018年に総合優勝を果たし、日本のノルディック複合を牽引してきた。2025年の10月に今シーズンかぎりでの引退を発表した。

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