ボートレーサー・渡邉雄朗は公認会計士試験で電卓を没収され「暗算と筆算」で合格した (3ページ目)
柔和な笑顔で誠実に語る渡邉 photo by Ishikawa Takao
【すさまじい集中力】
新たな仕事を探すことにした渡邉だったが、思わぬところで天職に巡り合う。ボートレースを知ったのだ。
「当時はトレーニングが趣味でジムに通っていたんですけど、そこのトレーナーさんがオートレーサーを目指していたんですよ。そこで公営競技もボートレースも知って初めてピンときたんです」
スポーツと公認会計士の受験勉強に熱中してきた渡邉にとって、ボートレースとは無縁の世界だった。だがレース場に行って面白そうと感じるとともに、会計士試験と同じく「これならできるかな」という軽いノリが後押しする。そして今までどおり、やると決めたら渡邉は一直線だ。
猛反対する親を説得して勤めていた監査法人を辞め、大学のジムを借りてトレーニングを開始。筆記試験対策としてわざわざ中学生向けのテキストを買って勉強し直すという徹底ぶりだった。ボートレーサー挑戦は1回限り、という親との約束だったが、倍率数十倍の難関を渡邉は一発でクリアする。
圧倒的な集中力と突破力。それこそが渡邉の武器であり、スポーツでも勉強でも渡邉を支えてきた。
「ひとつ、武勇伝があるんですよ」と、少しニヤリとして披露したエピソードが渡邉雄朗という人間をよく表している。見事合格した2度目の会計士試験の最中でのことだった。
「会計学の論文試験の時なんですが、これは3時間の試験なんですけど開始1時間で『その電卓、規定外なんで使えないんですよ』って電卓を没収されたんです。『ウソでしょ!?』って(笑)。だから残りの2時間は暗算と筆算。人生で一番集中した2時間でしたね」
普通なら考えられないエピソードだが、渡邉の常識外れの集中力と突破力が成せた離れ業である。そして、この強靭なメンタルがボートレーサーとなった後も生きてくるのだ。
【Profile】
渡邉雄朗(わたなべ・たけろう)
1986年5月1日生まれ、千葉県出身。大学卒業後は公認会計士として会計事務所に勤務。多忙な日々を送りながらもボートレースの試験にチャレンジし、やまと学校(現ボートレーサー養成所)に25歳で入学。2013年5月、27歳の時にプロデビューを果たす。現在はA1級に所属。優勝回数10回、G1には12節出場し1着14回の成績を残している(2025年11月11日現在)。
著者プロフィール
杉田 純 (すぎた・じゅん)
1996年生まれ、東京都出身。大学卒業後、金融機関勤務を経てボートレース専門紙「ファイティングボートガイド」の記者に転身。現在はボートレース取材の傍ら、野球の記事執筆も手掛け、12球団合同トライアウトは22年から3年連続で取材。目標はこの欄で紹介できるような著書を書けるようになることと、舟券の年間回収率100%超え
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