【平成の名力士列伝:安芸乃島】横綱にも真っ向勝負で挙げた金星は史上最多の16 記録にも記憶にも残る名関脇
堂々とした相撲で史上最多の16個の金星を挙げた安芸乃島 photo by Jiji Press
連載・平成の名力士列伝31:安芸乃島
平成とともに訪れた空前の大相撲ブーム。新たな時代を感じさせる個性あふれる力士たちの勇姿は、連綿と時代をつなぎ、今もなお多くの人々の記憶に残っている。
そんな平成を代表する力士を振り返る連載。今回は、6人の横綱から金星を挙げた安芸乃島を紹介する。
【堂々たる土俵態度と勝ちっぷり】
平幕力士が横綱を破る「金星」は大相撲の醍醐味の一つ。強い横綱が格下の力士に敗れる番狂わせに、館内は大いにヒートアップする。そんな金星を史上最多の16個も獲得し、平成の相撲人気に一役買ったのが安芸乃島だ。
どっしりとした安定感のある体つきに左四つの力強い取り口で、千代の富士、北勝海、大乃国、旭富士、曙、武蔵丸と6人の横綱すべてから金星を挙げた、記録にも記憶にも残る名力士だ。
出身は瀬戸内海に面した広島県安芸津町。漁師の父に厳しく育てられ、小3から始めた柔道で県内屈指の強豪となる。大相撲の巡業が地元で行なわれた際、大関・貴ノ花に誘われて入門を決意し、中学卒業時の昭和57(1982)年3月場所、引退した貴ノ花が興したばかりの藤島部屋(のち二子山部屋)から初土俵。22歳の若さで幕内上位に進出すると、昭和63(1988)年9月場所に横綱・大乃国から初金星を挙げて初の殊勲賞、平成元(1989)年1月場所には横綱・千代の富士から金星を挙げるなど大物食いとして頭角を現し、たちまち三役や三賞の常連となった。
とりわけ注目を集めたのが、堂々たる土俵態度と勝ちっぷりだ。上背はないが、がっしりと鍛え上げられた体は安定感抜群。横綱を相手にしても小細工せず、真っすぐぶつかって左四つに組み、右上手を浅く引く得意の体勢を築くと、引きつけてグイグイ前に出る。そんな力強い相撲で、自分より体格や実績がはるかに勝る力士を堂々と破る相撲は痛快だった。喜怒哀楽を表に出さず、常に寡黙で冷静。インタビュールームでもまったく笑顔を見せず、淡々とコメントをする姿が武士のようだと評判にもなった。
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著者プロフィール
十枝慶二 (とえだ・けいじ)
1966(昭和41)年生まれ、東京都出身。京都大学時代は相撲部に所属し、全国国公立大学対抗相撲大会個人戦で2連覇を果たす 。卒業後はベースボール・マガジン社に勤務し「月刊相撲」「月刊VANVAN相撲界」を編集。両誌の編集長も務め、約7年間勤務後に退社。教育関連企業での7年間の勤務を経て、フリーに。「月刊相撲」で、連載「相撲観戦がもっと楽しくなる 技の世界」、連載「アマ翔る!」(アマチュア相撲訪問記)などを執筆。著書に『だれかに話したくなる相撲のはなし』(海竜社)。