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為末大に聞く日本スポーツ界の構造的問題とは?「小学生までが勝利至上主義に染まってしまう」 (3ページ目)

  • 西村 章●取材・構成 text by Nishimura Akira

【問題は、低年齢からの勝利至上主義】

――鶏が先か卵が先か、という話かもしれませんが、報道はどうしてもメダル中心になる傾向があります。元アスリートの視点からはやりすぎだと感じるのでしょうか? あるいは、こんなものだろうと割りきっているのですか。

為末:こんなものだろうという思いも、半分くらいはあります。でも、本当にメダルだけに注目するのであれば、競技人口が世界的に少ないなどの条件で強化費に対してメダルが取りやすい競技があるんですよ。すると、そこに資金を投下することが最適解になる。でも、そうなると強化費の配分がいびつに偏ってしまう。

 だから、社会にメダル以外の価値がもう少し浸透していったほうがいいと思います。だけど、メダル至上主義なのは世間よりもむしろスポーツ界なんですよ。メダルの価値をあまりに重く置きすぎるあまり、小学生までが勝利至上主義に染まってしまう印象がありますね。

――その傾向は今も連綿と続いているんですか?

為末:むしろ加速していますね。

――とはいえ、たとえば全柔連のように小学生の全国大会を廃止する動きも出てきているようですが。

為末:そうですね。あの決定は、以前よりも勝利至上主義が加速してきたから止めたという側面もあったのではないかと思います。

 最後のところが勝利至上主義になるのは、仕方ないと思うんです。頂点を争う選手たちは、やはり誰しも勝ちたいですから。問題は、低年齢で勝利至上主義になってしまうことで、小学生からそれだと悪影響のほうが大きいので、高校くらいまでは勝利の要素は半分以下に抑えて、体を動かすことが楽しいとか、友達とスポーツするのがいい、ということに重点を置くべきだと思います。

――そういう風になっていきますか?

為末:私はスポーツでも教育の領域で活動しているので、その方向で進めていくべきだと思っています。中学校ぐらいまでは興奮せず楽しくスポーツをできるように作り変えて、勝つことだけが目的ではない、すべての子どもにとっていいスポーツのあり方を文化として広げていくべきだろうと思います。

 時間はかかるかもしれませんが、やればきっと変わっていくと思いますよ。私自身はその土壌作りに取り組んでいきたいですね。

――バレーボール界では「監督が怒ってはいけない大会」を益子直美さんが始めるなど、子どもたちが楽しくスポーツに接する取り組みは着実に裾野を広げているようです。

為末:我々がいまやるべきことは、そのような個別の取り組みに「いいね!」を押していく活動だと思うんですよ。つまり、「益子さん、いいですね!」「益子さんがやっていることはすばらしいですね!」と、近い考えを持っている人たちが積極的に関わりにいくことが重要なのだと思います。

つづく

>>前編「レガシー、アスリートファーストとは何だったのか?」

【Profile】為末大(ためすえ・だい)/1978年生まれ、広島県出身。現役時代は400mハードル日本代表選手として多くの世界大会に活躍し、2001年エドモントン、05年ヘルシンキの世界陸上選手権では銅メダルを獲得。オリンピックには2000年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続で出場を果たした。現在(2024年7月15日)も400mハードル日本記録(47秒89/2001年樹立)を保持している。2012年シーズンを最後に現役を引退後、現在はスポーツ事業を行なうほか、アスリートとしての学びをまとめた近著『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』を通じて、人間の熟達について探求する。

著者プロフィール

  • 西村章

    西村章 (にしむらあきら)

    1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)、『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』 (集英社新書)などがある。

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